ミミズ式SGキネマ倶楽部

ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバーのミミズ式SGキネマ倶楽部のネタバレレビュー・内容・結末

3.5

このレビューはネタバレを含みます

楽しい作品でした!けど納得もいかない点もありました。本作のテーマは追悼と継承の二つのテーマがあるといえます。2020年に他界したチャドウィック・ボーズマンを追悼し、ブラックパンサーを誰に継承させるのかというテーマです。本作はそのテーマをうまく消化しきれていない様に感じます。またヒーロー映画としてのカタルシスがなく、(そこはMCUフェーズ4に入ってから意図的にやっているものかもしれませんが)ヒーローとは何かを改めて感じさせる作品になっています。

まず追悼と継承の面ですが、本作の序盤、病によってこの世を去ったティ・チャラ。葬式の場面からいつものマーベルロゴが彼単独の仕様になっているところまでは追悼の面を前面に押し出していました。しかし、その後映し出されるのは国王を喪ったことによる国内の混乱と残された家族の精神がおかしくなっていく様でした。

特に家族のご乱心ぶりがすごく、本作のヴィラン(ヴィランと呼んでいいのか…)のネイモアの話にも聞き耳持たず、安易に海底人を殺害してしまったことで戦争が勃発。その争いで母親を亡くしたことで、主人公シュリも復習に囚われ、研究に没頭するように。しかし、その甲斐あってか、ブラックパンサーになる方法を見つけ、結局シュリがブラックパンサーになることに。前作では精神的な儀式と王座争奪戦を勝ち残ったものだけが王座に付けるというメンタルとバイタル両面からブラックパンサーに選ばれるものという描き方をしていましたが、本作では、ただハーブを飲んだシュリが超人的な力を手に入れてしまいます。これでは、前作のヴィランであるキルモンガーと変わりません。復讐に囚われ、ただ力を振るうだけの存在になったシュリの初登場シーンのカタルシスのなさは、スターウォーズのアナキンを観ているかのようです。

シュリが腹を刺された時には、「あっそういう終わり方をするんだ」とここでこのブラックパンサーの物語も終わるのかと思いきやなぜか耐え「ワカンダフォーエバー!」と叫びながら背後からの爆風でネイモアを攻撃し、半殺しにするシーンはシリアス通り越してシュールとすら感じました。

そうして半殺しにしたうえで、降伏させ民に元に戻ったシュリが再び「ワカンダ・フォーエバー」と口にし、勝利を宣言するシーンもなんだかなぁという感じです。

結局何が言いたいかというと、シュリのブラックパンサーになる経緯が強引であり、ブラックパンサー(ヒーロー)に求められる高潔さを感じられなかったので、継承という点で失敗しているのではないかという事です。

対するネイモアは海を泳ぐ力を持ちながら、足についた羽で飛ぶこともできるというDCのアクアマンとも違ったアプローチの仕方で登場しており、南米の先住民族の意匠を残した服装や音楽なども良かったですね。というよりもあまりにもシュリがヴィランに傾いているので、ワカンダ側を応援できず、自然とネイモアを応援してしまうんですよね。

総じてチャドウィック・ボーズマンの追悼作品として愛のあるオープニングとエンディングで喪が明ける様を見事に演出している一方で、話運びは血生臭く、特にワカンダ側の言い分が納得いくものではなかったので、いまいち自分はライドできなかった印象です。ただ、161分の長さはあまり感じず、不必要なところは極力削いでいる印象です。

主人公にいかに感情移入し、共感できるかが本作を楽しむためのポイントになっていると思います。