SANKOU

喜劇 愛妻物語のSANKOUのネタバレレビュー・内容・結末

喜劇 愛妻物語(2020年製作の映画)
4.6

このレビューはネタバレを含みます

妻とセックスすることしか頭にないダメ夫の豪太に対して妻のチカが放つ言葉は強烈で、台詞だけを捉えると物凄く気分の悪くなりそうな内容なのに、そこは演出とキャスティングの上手さだろうか、しっかりと笑えてほっこりも出来る人間ドラマになっていた。
豪太は本当に責任感がなく不実な人間に感じるが、演じる濱田岳の愛嬌あるキャラクターのおかげか観ているこちらにそこまでの拒絶感はない。
チカ役の水川あさみも好演していて、豪太のことを心の底では信じているからこそ強い毒のある言葉を吐くのだということがしっかりと伝わってくる。
いい加減なプロデューサーの代々木の態度が、シナリオライターの仕事の大変さを物語っているようだった。
とにかく娘のアキを加えた三人の家族の姿が面白い。シナハンのために朝一で青春18きっぷで香川を目指す三人だが、貧乏旅行なのでお金はほとんど使えない。全くやる気のないうどん屋の主人や、シングルの部屋に家族三人で泊まるためにチカがホテルの裏口から侵入しようとするシーンはおかしかった。
結局目的の女子高生がうどんを打つ家を訪ねてみると、すでに映画化の企画が進んでいて無駄足になってしまう。
あまりにも不運続きの豪太に対して呆れ返るチカ。セックスさせてもらえない腹いせに街に飛び出した豪太は、泥酔した女性に下心を持って介抱しようとしたところを警察に捕まり勾留されてしまう。
二人の関係はどんどん悪化していく。二人の仲を何とか取り持とうとするアキの姿が健気だ。
チカの親友由実のおかげで二人の仲は修復する。チカは豪太に対して呆れ果てて暴言を吐き続けるが、それは実は相手のことをまだ認められているからだと思う。
本当に相手に対して信頼も愛情もなくなったら、それは無関心へと繋がっていく。
由実は旦那がいながらもセックスレスが続いており、年下の大学生の彼氏を作ってしまっている。ひょっとすると由実の方が夫婦仲は冷えきっているのかもしれない。
豪太は念願の妻とのセックスが叶い、実現しつつある企画も含めて今以上に努力をすることをチカに誓う。二人が寿司屋で夢を膨らませていくシーンに少しの希望が見えてくるが、現実は残酷でまたしても話が進んでいた企画が頓挫したという連絡がプロデューサーから豪太の元に入る。
チカは豪太は自分といると甘えてしまう、何も変わろうとしなくなると言い、家族のためにも別れてほしいと告げる。
今まで信じてきたものが突然崩れ果ててどうしようもなくなり号泣するチカ。その姿を見て同じく大泣きするアキ。
いつしか豪太も頑張っても頑張ってもどうしていいか分からないと泣き出す。お前に泣く資格はねえ!と怒鳴りながら泣くチカ。豪太は泣き笑いの状態でチカとアキを抱き締める。
全てが終わってしまう最悪の展開を予測させられるが、三人で号泣する姿を観ていると、ああこの家族は大丈夫だなと安心させられる。
回想シーンでチカが豪太に運気をもたらすためにお揃いで赤い勝負パンツを買うシーンが印象的で、チカは冒頭からずっとその赤いパンツを履いていたことが後になって思い出される。
全く理想の愛の姿ではないが、それでも世の中にはこんな感じで繋がっている夫婦はいるのだろう。
観終わった後に、この家族の姿を愛しいと感じさせてしまう足立監督のシナリオとキャストの演技力に脱帽した。
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