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巴里の屋根の下の一人旅のレビュー・感想・評価

巴里の屋根の下(1930年製作の映画)
3.0
ルネ・クレール監督作。

パリの下町を舞台に、ルーマニア人の娘・ポーラを巡る男たちの恋模様を描いたドラマ。
ルネ・クレール監督による初めてのトーキー作品。サイレントとトーキーが入り混じったような演出が印象的で、男と女の会話が聞こえてきたり聞こえなかったりする。これが予算の都合でそうなったのか、それともクレール自身が意図的にトーキーとサイレントを同居させたのかは分からないが、結果的に印象深い演出だった。
物語はポーラを好きになった三人の男があの手この手で彼女をモノにしようと奮闘する様子がコミカルに描かれる。ポーラというのがまた優柔不断な女で、男心を上手い具合に翻弄しまくる。一人の男に好意を寄せているような態度を取っていながら、状況が変わるとポーラの好意の対象も変わる。それまで好きだったはずの男をあっさり裏切り、別の男へさっさと乗り換えてしまうのだ。それも罪悪感なんて微塵もなくて、ポーラを好きになった男が一方的に恋の犠牲者になってしまう。悪女とまではいかないが、小悪魔的なポーラに魅せられた男たちの悲喜こもごもの恋模様が映し出される。
可愛らしく舌を出したポーラの姿が、やがて伏線になった終盤の演出が素晴らしい。また、屋根に始まり屋根に終わるという演出も、屋根の下でのささやかな庶民の恋物語を描いた本作のタイトルを象徴している。
そして、パリの下町風情も印象的。狭い路地に集まった人々が一斉に歌うシーンは生き生きとした庶民のエネルギーが充満している。
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