イクミナ

海辺の映画館―キネマの玉手箱のイクミナのレビュー・感想・評価

2.0
張りぼて映画
『フィロソフィ』という名の偽善の魔法の粉を聞きかじった情報や思いついたフレーズをまぶし、偽善の張りぼての上にさらに張って出来上がったようないびつな偽善の張りぼて映画。説明ナレーションの多いいことよ。壊れたものばかりはいったおもちゃ箱をひっくり返したようだ。
小津安二郎を登場させナレーションでフィリッピンに従軍して国威発揚の映画を撮ることになっていたが、自分の意志でクランクを回さなかったようなことを言っていたが、とんでもない。辺見庸『1937』を読んでないのかしら。小津が中国の戦場で書いていた『撮影に就いての《ノート》』に
『支那の老婆が部隊隊長のところに来て言ふ〈自分の娘が日本のあなたの部下に姦された〉部隊長〈何か証拠でもあるのか〉老婆 布を差し出す。
〈全員集合〉部隊長は一同を集めて布を出し〈この布に見覚えがあるか〉〈ありません〉〈次〉〈ありません〉一人づゝ聞いてまわる。最後の一人まで聞き終わると静(ママ)に老婆に歩みより〈この部隊には御覧の通りいない〉老婆 頷く。
抜き打ちに老婆を切りすてる。おもむろに刀を拭い鞘に納める。』
かなしいかな、これが現実である。
自分の意志でクランクを回さなかったなんてとんでもない、戦況が不利になり、映画なんて撮ることができなかっただけだ。歴史修正です。
あと、ピカとピカドンへのこだわりも変だ。さくら隊に関しては、新藤兼人『さくら隊散る』の方が、原爆の恐ろしさがわかる。
そして最後の方にとってつけたように、フクシマ。
追伸・・・、『小津安二郎』平山周吉著を読んだ。小津は、イギリスの植民地支配に反抗したチャンドラ・ポーズの映画『オン・トゥー・デリー』を撮っている。戦局悪化で未完成のまま焼却されたそうである。
それがいけないと言ってるわけではない。小津の映画は、観るたびに、すごいとおもう、ほれぼれする。だからこそ、安易に、偽善的に、歴史修正をしてはいけないと思う。
イクミナ

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