同性愛を題材にはしていますが、世に対する問題提起や意識改革が主題ではなく、あくまで男女や性差に関わらず人を愛することと、生きていくことが主題だと感じました。田舎暮らしや、子育てはそんなに甘くないという現実的な意見も当然出るかと思いますが、フィクションなので許容の範囲ですし、そこに拘るのは野暮かと。
主演お二人の演技は本当に嫌味がなく、演じる方によってはかなり嫌悪感を持たれるであろう難しい役を藤原季節さん、センシティブで繊細な感情表現が多い役を宮沢氷魚さんが丁寧に演じられていて好印象を受けました。
また、脇を固めたベテラン勢では根岸季衣さん、戸田恵子さんの演技が個人的にかなりグッときました。
男女の恋愛におけるコミカルな視点が同監督が持つ最強の武器と思っていましたが、アイネクライネナハトムジーク、本作を経ることで、もはや男女の恋愛云々を超えて、現代における他者を愛することへの葛藤や喜びを生活と地続きの雰囲気で表現するという、かなり突出した域に達したと感じました。
結末には、世の中にこれぐらいの寛容性と多様性があればLGBTの方々に限らず生きづらさが少し軽減されるのではないかという希望が詰まっていると思います。心温まる良作です。
