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KCIA 南山の部長たちのOrcaのネタバレレビュー・内容・結末

KCIA 南山の部長たち(2018年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

面白すぎてうまく感想がまとまりませんが、とりあえず箇条書きで。

・「インサイダーズ」「麻薬王」のウ・ミンホ監督作品。「麻薬王」は興行が振るわず、主演のソン・ガンホに申し訳なかったと「KCIA」のパンフレットで監督が語っている。本作の大統領初登場シーンが理髪室で、白衣の理髪師がちらりと画面に映るのはその埋め合わせなのか?と考えるとニマニマできる。(「大統領の理髪師」で、ソン・ガンホは朴正煕大統領の理髪師を演じているんですよね)

・朴正煕大統領暗殺事件を描いているが、登場人物はほぼ全員仮名にすることで、創作であることを一応担保している。主役のキム・ギュピョン部長も実際にはキム・ジェギュ。大統領も劇中では「パク大統領」としか呼ばれず、朴正煕と呼ばれる場面はたぶんない。実名フルネームで登場するのは、台詞で言及されるだけの金泳三ぐらいか。

・79年という設定の上、出てくるのがおじさんばかりということもあり、とにかく喫煙シーンが多い。見ているこっちが煙たくなりそうなほど。(「おじさんばかり」なのは悪いわけじゃなく、むしろすごい。日本だとアイドル出さなきゃ、若い女優使わなきゃ、みたいなのが必ずある)

・「黒縁メガネ七三分け」のイケメン封殺力がすごい。文句なしの二枚目であるイ・ビョンホンが全く二枚目に見えない。顔の良さという華を扮装で封じられた以上、純粋に演技力の勝負になるのだが、それを見事すぎるほと見事にやり遂げている。耐えて迷って苦悩して苦悩して、最後に大爆発!

・いやまあ、「イ・ビョンホンの演技の良さは苦悩や迷いの表情」だというのは数作見ればわかるんだけど、イケメンぶりを発揮できないこの役でもやっぱりそうなんだなと!イ・ビョンホン出演作を全てチェックしているわけではないけど、少なくともこれまで見た中では最高の演技をしていると思った。最優秀主演イ・ビョンホン。

・独裁を暴走させていく大統領を演じるのはイ・ソンミン。特殊メイクはどのあたりに使ったんだろう?顔そのものを朴正煕に寄せたりはしていないと思うので、生え際の形くらいかなあ。イ・ソンミン、あんなにデコ広くないよね。

・このイ・ソンミンももちろん素晴らしい。(イ・ソンミンの最高傑作かと言われると、そこは「工作」の方がーーー!!!と思うけど)暴走する独裁者かと思えば、腹心の部下の前では打ち解けて思い出話をしたり、身を引こうかと弱気な発言もする。こんな人間的な面を見せられると、恐ろしい弾圧をしていても、日常的に接する人は嫌いになり切れないよねえ。(なお、このときもう大統領は妻を凶弾で失っていて、枕の下に拳銃を入れて寝るような人間不信状態だったらしい)

・この思い出話タイムのとき(with マッサ)は本当に穏やかな顔になるから、キム部長がこの人について来たのも理解できてしまうし、大統領を葬るべきか、支え続けるべきかでキム部長が揺れるのもよく分かる…つらい…。そしてまた、この揺れを表現するイ・ビョンホンの演技も上手くてねー!ほんといい映画ですね!

・意味ありげに2回出てきた、「片方の靴が脱げている」シーンが非常に印象的だった。制作側がそこまで考えたかどうかはともかく、「1987」を見ている人は、デモに参加した学生が重傷を負うシーンを思い出したはず。このとき、致命傷を負った学生のスニーカーがやはり片方脱げる。「KCIA」で描かれる事件から1987年まではまだ7年以上あるけど、パク元部長やキム部長の「片方脱げた靴」は、「1987」につながっていくのかもしれない。
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