LEONkei

異端の鳥のLEONkeiのレビュー・感想・評価

異端の鳥(2019年製作の映画)
4.2
息をするのも忘れ、乾いた口の中から唾液を絞り出し飲み込みたくても飲み込めない…。
無呼吸状態に陥りそうな169分間は、久々にスクリーンに釘付けになった。

169分間がまったく長く感じなかったのは9章に物語が分かれ、少年の行く先々で人間の無慈悲で残酷な痴態が曝け出されるから。

目を背けたくなるような人間の醜さと同時に(不謹慎でも時に失笑するほど残酷)、本能と欲望をまざまざと見せつけられる無慈悲で残酷な究極のデス・ロード・ムービー。

実際に撮影と共に少年が成長し顔つきに変化が表れるのも面白いが、印象的なのは行く先々の人の顔。

泥臭く皮膚に刻まれた深い皺や乱れた白髪に汚れた歯…、自然でリアルな人間の本質を撮った〝アンリ・カルティエ=ブレッソン〟のポートレイトを思い出す。

それは人間を人間として扱い描くのではなく、人間も馬や山羊や鼠や鳥と動物の中のひとつなんだとも思わせる。

光と影のコントラストが美しいほどに残酷で、静寂の間と構図が素晴らしいのは言うまでもない。

何故、人間はそこまで残酷になれるのか…、全ては〝戦争のせい〟…では全くない。

戦争が人を狂わせるのではなく、元々人間とは弱く臆病で野蛮で偏見を抱える脆い生き物なんだと再認識させられる。

自分の正当性やテリトリーを侵害する者・するであろう者には、自らを守る本能と生存本能に駆り立てられる。

目を背けたくなるような描写も有るだろうが、人間(動物)の本質から逃げ理想ばかり追っていては何も変わらない。

誰もが持ち合わせるココロの闇から、人間で有り続ける限り逃れられない..★,
LEONkei

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