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異端の鳥のrosechocolatのレビュー・感想・評価

異端の鳥(2019年製作の映画)
4.1
想像を絶する光景だけが延々と続いて「一体何を観させられてるんだろう」とまで思ってしまう。早く終わらないかなとしきりに時計を見るのだけど、何故か展開される出来事から目が離せない。

戦争とは人の心を破壊するものだが、ここに出てくる土着の人々の心は戦争とは関係なく既に壊れている。少しでも自分たちとは異質のものが現れると絶対に受け入れようとしない心。さらにはそれを葬り去ろうとする心。もしかしたらかつての自分たち、あるいは自分たちの先祖だって異質なところからスタートしたかもしれないことは考えもせずに、彼らは行くあてもない少年を蹂躙する。

そんな無慈悲な人々に行く先々で出会ってしまう少年。彼もまた運命のいたずらで流浪の身となってしまう。何かにすがらなければ生きていけないと幼いながらも本能で悟る少年は、生きる術を身につけて行く。本能的に、相手が望んでいることを見抜いて働き、役立つと思ってもらわなければ生きていけないからだ。

懸命に生きる少年を排除する者、搾取する者が殆どの中、時折彼に哀れみを示した者もいた。そんな心優しき者たちも、自ら壊れ、または愛する人が壊されたことで絶望して死んでいく。

この世は、人の心を壊した者の勝ちなのだろうか?
そう思うことは現代でも多くある。
壊されるくらいなら先に壊そう、そう少年が学んだとしても無理もない。
およそ人としてやってはいけないことはやり尽くしてしまった少年が、自分を取り戻すことはできるのだろうか。
流浪の前と後では、彼の「生」への向き合い方はまるで違うはず。一生その記憶を胸にしまったまま、彼は生きていけるのだろうか。
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