春とヒコーキ土岡哲朗

マリッジ・ストーリーの春とヒコーキ土岡哲朗のネタバレレビュー・内容・結末

マリッジ・ストーリー(2019年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

こんな最悪な争いが「仕方ない」のが、つらい。


ずっと嫌な時間しか流れていない映画。

最初、夫婦が互いのいいところをナレーションして始まる。離婚の話と言えど、相手への尊敬がある二人の話なんだな、と思ったら、そのナレーションは離婚に向けてカウンセラーから言われて書いた互いのいいとこメモの朗読だった。二人が自発的に相手のいいところを挙げていたわけではないと分かって、寂しくなってスタート。

そこから、一切楽しい時間のない映画だった。二人のいがみ合い、プライド、自分の惨めさへの悲しみ。
演技のダメ出しをされ、感情の乗らない嘘泣きはしたくないと言った妻が、ベッドに入って泣く。この涙は、本当の感情があふれ出したということ。幸せな夫婦生活を夢見ていたのに、どうしてこうなってしまったんだろう。冷めた愛をまた熱するつもりはないが、壊れたことへの悲しみはある。
アダム・ドライバー演じる夫が、カイロ・レンすぎる。相手の責任もあるが、孤独を感じたらどんどん独りよがりに「おれは被害者だ!お前らが悪い!」になる人。
自分は正しい、もう取り戻そうなんて思わないけど自分の人生を壊された、と思っている同士の、冷戦のようで剥き出しの争い。これが『マリッジ・ストーリー』=結婚物語だなんて。


そんなつもりじゃない戦い。

自分勝手な夫と話し合いをするのに妻が弁護士を立てる。妻からすれば仕方ないことで、別に夫を叩きのめしたいわけじゃない。しかし、そうなると夫も自分の権利を守るためには弁護士を立てなくてはいけなくなる。そして、法廷が最悪。互いの弁護士が、依頼人の言っていた情報をもとに相手のことをぼろくそにけなす。夫婦は2人とも黙って、自分の弁護士が相手の名誉を傷つけるのを聞いている。こんなはずじゃなかったのに、自分の与えた情報が、自分の込めた銃弾が相手を傷つける。そして、演出家や女優としてのキャリアさえも、「そちらが儲けられたのは、夫の功績」「いや、それを言うならそっちこそ」と、全てお金の話に置き換えられる。自分たちが真剣に芝居をやってきた道のりも、こじつけでお金の記録として総括され、無念。その後、二人で直接話し合う。ようやくちゃんと話せるかと思ったら、最悪の大喧嘩。夫は妻に「子供さえ無事ならお前は轢かれて死ねと思っている!」と絶叫。こじれた関係は、そこしかない道を辿って、こうなるしかない結果に行きついてしまった。ただ、ここで不満を清算しきったから、互いを尊重した離婚をできた。


子供が不憫。

親の都合で二回ハロウィンに行かされるが、二回目の父とのハロウィンは何も楽しくない。作業としていろんなとこを回り、夜遅いのでお菓子をくれるところは少なく、母と回ったときと違ってお菓子が少ししか集まっていない。父は、子供と過ごす時間を意地でも確保してくるが、会うと一緒にいるという既成事実以外は何もない時間。離婚が完了してなお、子どもはこれからも気を使って父のもとに通うのかと思うとスッキリ終われない、どこまでも辛い映画だった。