アキラナウェイ

ハニーボーイのアキラナウェイのレビュー・感想・評価

ハニーボーイ(2019年製作の映画)
3.9
エンドロールになって、急に評価が上がる作品がある。これはまさにそれ。事前情報を何も入れていなかったから、最後の最後に、点と点が線となり、途端に胸に響く事がある。

2005年。ハリウッドのトップスターであるオーティス(ルーカス・ヘッジズ)は、アルコール依存により起こした自動車事故をきっかけに更生施設に入所する。治療の一環で過去の記憶を辿る内に、10年前の12歳だった頃の自分と父親との、かつての暮らしが蘇ってきた—— 。

心に傷を受けた退役軍人であり、前科者、元ロデオ道化師、今は無職の父は、子役の自分の稼ぎで暮らしている。父のバイクに2人乗りして、撮影現場へ。厳しい演技指導。直情的で、怒ると手がつけられない。そんな父に愛想を尽かして母は出て行った。

強烈なインパクトを残すオーティスの父を演じるは、シャイア・ラブーフ。髪の毛は薄く、お腹はぽっこり膨らんでいる。シャイアなりのデ・ニーロ・アプローチに驚く。

2005年のオーティス(青年期)役に、ルーカス・ヘッジズ。品行方正な役が多い印象だが、今回は父との確執がトラウマとなり、PTSDの兆候に悩まされる難役。派手さはないけど、上手い。近年、出演作が目白押しで、眉毛と目の間隔が狭くて目付きが悪く見えるけど好き。

1995年のオーティス(少年期)役に、ノア・ジュブくん。「ワンダー 君は太陽」、「クワイエット・プレイス」、「フォードvsフェラーリ」と、この子も活躍がめざましい。

オーティスと父が暮らすのはモーテルの一室。華々しい子役の仕事ぶりとのギャップ。カリフォルニアの夕陽とピンクのネオンサインの彩りが美しいが、住む人々の暮らしは決して明るくはない。

愛して欲しいのに。
愛したいのに。
互いの想いは其処にあるのに。
それでも、言葉として語られる事はない。

時に、少年は父に手を上げられ、怒った父はバイクで出て行ってしまう。

12歳の少年の心が痛む。
そのヒリヒリした感覚が僕らの心にも爪を立てる。

12歳のオーティスも22歳のオーティスも、父の影から逃れられないでいたんだね。更生施設のセラピーを繰り返す中で、彼はかつてのモーテルへと向かう。父と再び向き合う為に。

エンドロールで映し出されたのは、まだあどけなさの残る少年期のシャイアだった。そうか。これは、シャイアの物語だったのか。彼自身、ロサンゼルスで自動車事故を起こし、酒気帯び運転で逮捕されている。

シャイアの実体験を基に、彼自身が紡ぎ出した脚本だった事を知ったら、涙がポロポロ止まらなかった。

エンドロールを飾るボブ・ディランの"All I Really Want To Do"が、胸に沁みる。