マイノリティ

娘は戦場で生まれたのマイノリティのレビュー・感想・評価

娘は戦場で生まれた(2019年製作の映画)
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フォロワーさんのヴェローナ行きたいさんのレビューを拝読し、鑑賞しました。

息をするのも忘れる程の残酷な映像が次々に映し出され途中で止めようと思った程でした。

独裁政権の続く中東の国、シリアの街、アレッポの大学生の若者が講義デモを起こしました。

革命という名の元に彼らは政府に訴え続けました。

ジャーナリストを志すワアドは"歴史が変わる瞬間"を収めようとカメラを回し始めます。

しかし政権側が武力による無差別攻撃を始め、学生達の歓喜の声は爆撃音や銃声によって掻き消され仲間を失った悲しみや怒りの声に変わりました。

「この惨状を全世界に伝える事が私の使命」

彼女は再びカメラを手に取ります。

近くの川から何十人もの遺体が運び込まれました。

どの遺体にも拷問の痕が見られ頭を撃ち抜かれています。

遺体を検死したのはハムザです。

ハムザは医師を志す青年です。
彼は医学を学んだ仲間達と一緒に廃墟と化したビルを改造し、病院を作ります。

毎日運ばれる負傷者や死者。

全身、爆撃が巻き起こす風のせいで全身砂埃で真っ白になった小さな子供が「弟を助けて」と泣き叫んでいます。

ハムザやその仲間達は一人でも多くの人を助けようと懸命に治療にあたります。

毎日運ばれる患者は留まる事を知らず、それでもハムザ達はその手を止めようとしません。

ワアドとハムザ。

手段は違えど彼らの目的は一つです。

"再びこの地にこの市民にこの国に平和と自由を"

お互いの使命に共感した二人はやがて恋に落ち、そして結婚します。

外は絶えず鳴り響く銃声。
地割れする程の爆撃の衝撃。

そんな中での結婚式。

いつここにも爆撃されるか分からない。

そんな状況の中でもワアドの友人、ハムザと同じ夢を持った人々が彼女達を祝福します。

そしてワアドは身籠ります。

明日は我が身という状況なのに不安で仕方ありませんでしたが、妊娠の事実は彼女にとって嬉しい事でした。

夫に伝えると涙を溜めて喜びました。

やがてワアドは女の子を出産しました。

彼女は夫と同じ思い、
平和の祈りを込めてアラビア語で(空)を意味する"サマ"と名付けられました。


サマは母に似てとても可愛く大きな瞳をしています。
彼女の笑顔は毎日毎日繰り返される悲劇を一時、忘れさせてくれる存在です。

終わりの無い治療、毎日運ばれる患者、救えなかった幼い命。

身も心も疲弊し切った父にも束の間の安らぎを与えてくれる彼女。

ワアドとハムザは心の底から我が子をこの世に授かった事を感謝しました。

産んでよかったと。

そして彼女を守ろうと。





印象的だったシーンはワアドがある少年にマンションみたいな建物のバルコニーでインタビューしていたのですが、その最中にも間近で爆撃が起きています。

しかし逃げもせず、驚きもせずに淡々と答えているんです。

彼にとっては爆撃が"日常"です。

我が国では考えられないシーンでした。

このままいけば、目の前で誰かが暴行を受けていても射殺されても道に遺体が横たわっていても平然としていられるのでは無いのか。

もう既にそんな子供が居るかも知れません。

そんな事を思いました。

そしてサマの澄んだ瞳が血の色で汚れない事を切に願います。


二度とは観たくないけど観てよかったと思いました。


最後にヴェローナ行きたいさん本当にありがとうございました。