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バーナデット ママは行方不明のKuutaのレビュー・感想・評価

3.7
帰りの飛行機にて。リチャード・リンクレーターの新作。流石の安定感。良作だった。

偏屈な女性建築家バーナデットと、強い絆で結ばれた娘、マイクロソフト勤務の真面目な夫によるホームコメディ。同名の小説の映画化。

事前情報ゼロで見たので、話がどこへ行くのか読めなかった。会話のテンポが良く、シニカルな笑いも楽しい。

ケイト・ブランシェットは安定の好演。仕事への自信を失い、対人恐怖症に陥ったがプライドは高いままの母親。理想的な家庭を築いているものの、トラウマと向き合えずにひねくれ、精神的に追い込まれている。「ママ友からの孤立」「変な家に住む」等、地味ながら確実に嫌な苦境にいる設定が面白い。

マイクロソフトを始めとする文明の利器が物語のポイントに。自動音声入力を使ってスマホにまくし立てる冒頭と、対照的な電話が登場するラスト。それぞれのその後の展開含め、映画的な対比が効いている。ラストは素直に感動。

理知的で穏やかだけど、やっぱりコミュニケーションは上手くない夫(ビリー・クラダップ)。妻と直接対話しようとしない。彼が開発したボナンザ2は、頭がイメージした文章を自動で文字にしてくれる。中盤に精神科医?を雇ってからは、彼のモヤモヤは全て医師が代弁するようになる。

決して完璧な映画ではない。時制の行き来する原作の情報量を処理するためか、夫婦がストレートに苦しみを語る場面がやや長い。YouTube動画で母の過去を振り返る手法もかなり説明的で、もう少し工夫のしようがなかったか。

振り返ってみると、冒頭でバーナデットの居場所を見せる構成自体どうなんだろうとも思う。原作にある母親探しのミステリー要素を排し、彼女の再生に主題を置く狙いだと思うが、話の推進力が「どうやってそこに行ったのか」に集約されてしまうのは改悪にも感じる。個々の会話は面白いし、途中に予想外の事件も起こるので退屈はしなかったが…。米国の批評家から「話がバラバラ」などと酷評が並んでいるのも、この辺りが原因か。

恵まれた白人家族という根幹の設定に対して「20年前に作られるべき映画」との批判も見かけた。確かに取ってつけたような賢い黒人役のローレンス・フィッシュバーンは、それっぽく感じた。

良くも悪くも「安定の米製コメディ」だ。日本公開はいつになるか分からないが、私としてはこういう肩肘張らない作品に出会えると、米国の映画の底力を感じられて嬉しくなる。撮影も良いし、演出もシンプル。映画好き、ケイト・ブランシェット好きなら是非どうぞ。74点。
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