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地獄の黙示録 ファイナル・カットのmasahitotenmaのレビュー・感想・評価

3.5
フランシス・フォード・コッポラ監督が、ジョゼフ・コンラッドの小説「闇の奥Heart of Darkness 」を原作に、舞台をベトナムに移して、この世の終末と人間の心の闇を描いた問題作。
カンヌ国際映画祭で「ブリキの太鼓」とともにパルム・ドールを受賞。
「闇の奥」以外にもT・S・エリオットの「荒地The Waste Land 」や「うつろな人間たちThe Hollow Men」の一節が引用されていたり、ジェームズ・フレイザーの「金枝篇The Golden Bough 」から"王殺し"や"犠牲牛の供儀"のシーンが採用 されるなどモチーフとしている文学作品が多数ある。
原題:Apocalypse Now(1979)
今回の鑑賞は、"オリジナル版"公開50周年を記念してコッポラ自身が編集した、オリジナルより30分長い"ファイナル・カット版「Apocalypse Now Final Cut」(3時間02分)。
なお「特別完全版」は未鑑賞。

ベトナム戦争が激化する1969年。
アメリカ陸軍のウィラード大尉(マーティン・シーン)は、カンボジア奥地のジャングルで自らの王国を築いているカーツ大佐(マーロン・ブランド)を暗殺する命令を受けて、4人を連れてヌン川をさかのぼり、カンボジアの奥地へと踏み込んでいく…。

~他の登場人物~
・報道写真家(デニス・ホッパー)
・夫を戦争で失くしたフランス人(オーロール・クレマン)

賛否両論を巻き起こし、スクリーンをじっと見続けるには少し我慢を強いられる作品だが、ベトナム戦争の狂気を描いた印象的な場面が何ヵ所かある。
~その場面の一部~
・キルゴア中佐(ロバート・デュヴァル)率いるヘリ部隊が、サーフィンをするために、ワーグナーの「ワルキューレの騎行」を流しながらベトナムの村落を攻撃していくシーン、
・"ミス8月"サンドラ・ビーティー、"ミス5月"テリー・テレイ、"バニーの女王"ミス・キャリー・フォスターがヘリで慰問に来るシーン
・麻薬に溺れ正気を失ってゆく哨戒艇の乗組員たちによる"サンパン"の臨検シーン、
・ヌン川のアメリカ軍最後の拠点ド・ラン橋で指揮官不在のまま戦う部隊、
・ウィラード大尉がフランス人入植者たちと会食するシーン…

「朝のナパーム弾の臭いは格別だ」
I love the smell of napalm, in the morning.

「あなたという人間は2人いる。人を殺すあなたと人を愛するあなた。…でも、あなたは生きている。それが大切なの」

「理性的判断が敗北を招く。…何よりも嫌悪すべきは偽りが招く悪臭だ」

「恐怖。恐怖には顔がある。恐怖とそれに怯える心を友にしろ。そうしなければ、この2つは恐るべき敵になる」

ドアーズの「ジ・エンドThe End」が、ナパーム弾により全てが焼き払らわれる冒頭やウィラードがカーツ殺しに至るシーンで使われ、全体の基調を成す。
ローリング・ストーンズの「サティスファクション(I Can't Get No) Satisfaction」もうまく使われています。

現代社会(戦争時だけでない)の中で、人は善悪の意識を失って精神の不毛の中で生きている。精神の不毛の中で疲弊して生きることは死を意味することであり、死によって生きるしか道はないのか…。
なお、この作品をカンボジアやベトナムの人たちが見たら、カーツ大佐の王国の描かれ方などに特異(奇異)さを感じないのか聞いてみたい。
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