KUBO

ザ・レポートのKUBOのレビュー・感想・評価

ザ・レポート(2019年製作の映画)
4.0
2019年、ラストの映画はこれ! Amazon Prime で自宅にて鑑賞。

しみじみ、深く、良い映画であった。

オープニングでタイトルが”THE TORTURE REPORT”から”TORTURE”が塗りつぶされ単なる”THE REPORT”に変わる趣向は、後で極秘文書が公開前に黒塗りだらけになることと引っかけてありおもしろい。

9.11後に明らかになった、CIAが行なっていた水責めなどの拷問を含む違法な活動の報告書をめぐるシリアスな政治劇。

最近、ノリに乗っているアダム・ドライバーが、その調査官ダン・ジョーンズを演じている。

CIAがアル・カイーダ関係者を拘束して自白させるために導入した「EIT (高度尋問テクニック) 」。これは「SEREプログラム」と呼ばれ Debility (衰弱)、Dependency (従属)、Dread (恐怖)、この3Dを被疑者に与えることによって「学習性無力感」を与え、自白に追い込むというプログラムだ。

だが、このプログラムを指揮した軍人あがりの2人の心理学者の専攻は「高血圧のための食事と運動療法」だったり「家族療法」だったり、尋問とは程遠いものだった。

調べれば調べるほどCIAの杜撰な尋問の在り方が明らかになる一方、CIAはその報告書が表に出ないようにダン・ジョーンズに圧力をかけてくる。

劇中でCIAのトップが「(9.11について)責任のなすりつけ合いは無意味だ」とか言ってるけど、9.11までを描いた海外ドラマ『倒壊する巨塔』を見たあとだと、世界観が続いているので深い理解にもつながる一方で虚しさも大きい。『倒壊する巨塔』の主人公、FBIのスーファンも、同ドラマでFBIに情報を渡さないCIAの女幹部ダイアンも登場する。

劇中に『ゼロ・ダーク・サーティ』のニュースがテレビに流れるシーンがあるが、『ゼロ・ダーク・サーティ』の公開日は2012年12月19日。実はこの映画は、CIAの拷問の成果がビンラディン殺害につながったとする、体制側のプロパガンダに使われ、オバマ再戦を支持するものとされたらしいが、本作での報告書が世に出るずっと前に、CIAによる拷問が既成の事実として描かれている点で興味深い。

そして、2015年、オバマが拷問禁止の書類にサインして、EITは禁止となった。

「このような報告書が完成すること自体、世界では珍しい」
「報告書を完成させるだけでなく、公表できる国でありたい。そういう国の姿を見たい」

『新聞記者』と見比べてみてほしい。もちろん立場も戦う相手も違うんだけど、これが日米の民主主義の本質的な違いだ。

それにしても、最近のアダム・ドライバーはいいなぁ! 本作も Amazon Prime 独占。素晴らしい作品だった。『記者たち』『ペンタゴン・ペーパーズ』『ザ・シークレット・マン』などが好きな人は必見!

2019年は劇場・試写会で新作267本、自宅での旧作含めて366本の鑑賞。今年も素晴らしい映画にたくさん出逢うことができました。来年はどんな映画に出会えるかな? それでは皆さま、Have happy movie holidays !
KUBO

KUBO