ブタブタ

街の上でのブタブタのレビュー・感想・評価

街の上で(2019年製作の映画)
4.5
130分の映画で特に何も起きない会話劇中心なのに全然退屈しないし面白かった。
例えば今「秋葉原」を舞台にした映画を撮ろうとしてももう嘗ての「秋葉原」は存在してない。
アニメの『ラブライブS1』の舞台になった頃がギリギリ、オタクの聖地としてのアキバの最後だったんじゃないだろうか。
電気街の名残り、この世のあらゆる電気部品が揃う電脳市場、裏道に入ると非版権商品が堂々と売ってる様な秋葉原はもうとっくの昔になくなってる。

再開発の最終完成形としてUNIQLOやスタバが入ったキレイな駅ビルが出来てその土地や街に昔からあるエネルギーみたいな物が完全に消え去ってどこにでもある街に変わる。
下北沢も再開発工事であの分かりにくい駅前は整理されたみたいだけど『街の上で』で描かれたこの世界が今も存在してるとしたら驚き。

自分の下北沢の記憶は90年代頃に小劇場の芝居を何かやたら見に行ってたのが最後。
地方に引越してからは東京に行っても下北沢には用がないので殆ど行かない。
何年か前に一度行った時に古書ビビビ(思い出した古書ビビビに行くのが目的だった)からの駅への帰り道、劇場の裏を通った時「馬鹿よ貴方は」の平井〝ファラオ〟光さんがいた。
ファラオさんは細くて背が高く超カッコよかった(写真も撮らせて貰った)
ファラオさんは『街の上で』主演の若葉竜也さんとは『江戸川乱歩短篇集・何者』で共演してる事を思い出した。

荒川青(若葉竜也)は彼女に浮気されて何故かフラれるものの直ぐ別の女性に声を掛けられその後も入れ代わり立ち代わりのモッテモテの日々(にしか見えないんだけど・笑)

特に何かがある訳ではなく下北沢の街に生きる人達の群像劇。
主人公が世界の中心ではなくて当然ながら現実世界ではそれぞれの人がそれぞれの人生の主役であるし、それぞれのお話しが進みつつ時々其れがすれ違ったり交差したりする。
その究極が一応のクライマックスである青と雪とイハとイハ三人目元カレとバーのマスターが一堂に会するあの爆笑シーン。
古着屋のお客のあの女の子も間違いなくこの下北沢の世界を生きる一人の主人公であって映ってない所でも彼女の物語は進行してて彼女の物語の一応の結末も見せてくれる。
主役も脇役もなく全ての登場人物に役柄としての優劣がないと言うか、個人的に一番美しくて魅力的だったのはラーメン屋での風俗嬢のあの女性何だけど。

カフェのマスター(『仮面ライダービルド』の三羽烏の人だー)が言う「文化ってスゴい」と青の言う「街ってスゴい」って根本的に同じ事を言ってる気がする。
カフェのお客の女性の下北沢聖地?巡りのくだりで新宿の階段(多分南口のあすこ)が下北沢だと勘違いしてて、でもあの女性にとっては漫画の中の下北沢も新宿も自分の中の「下北沢」で其れは記憶とかイメージとか勘違いした部分も含めた「下北沢」という形のない文化としての街「下北沢」なんだと思う。

雪(保紫萌香)って「男的な女々しさ」のキャラクター。
二股掛けてて別れた相手をウジウジ思ってて自分勝手により戻そうとか、普通こういうキャラクターって映画の場合は基本男のクズ人間として描かれるのに本作では女。
それが絶妙に面白くて。
現実だったら絶対関わりたくない人間だけど。

「朝ドラに出てますよね?」の成田凌と若葉竜也は両方朝ドラに出てる俳優ってメタ的なギャグとか。

イハの「長いとか短いとか意味の無い時間の概念」てセリフ。
映画は時間がくれば終わるけど人生は続いていくし、ここに存在する「今」こそが大事って意味だろうか。

下北沢はもうすっかり観光地化してるって話も聞くけど「神保町古書店街」「新宿二丁目」など既に世界的な観光地として知られてる街はその街の特色や魅力が観光地化する事で保たれてるんじゃないだろうか。
もはや観光地としての価値すらない秋葉原に比べたらその方がずっといい。

全く違うタイプの作品だけど『ツイン・ピークス』とか街が実質主人公で、街が持つ磁力みたいな物とそこに集う人達、やっぱり「下北沢」って街が主役の映画だった。

下北沢に又行く日が来るかどうか今の状況では分からないけど横尾忠則が描いたみたいな『Y字路』に立つ建物の「ギャラリーHANA」には行きたいのだけど。
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