ワイカ

i-新聞記者ドキュメント-のワイカのレビュー・感想・評価

3.9
 話題の東京新聞記者、望月衣塑子さんと、彼女の視点で見た現政権の異様さを描いたドキュメンタリー。日本のドキュメンタリーで記者ものは珍しく、見応えがありました。望月さんの取材姿勢にも胸を打たれました。

 お茶の間でもすっかり有名になった菅官房長官の木で鼻を括ったような記者会見の様子は、こうして強調されるとやっぱり異常だし、現政権の虫唾が走るような気持ち悪さがうまく描かれている。菅にすりよってる記者クラブの問題点も、うまく指摘してたと思う。

 望月さんの問題意識は、記者として当たり前のことなのに、彼女の質問を妨害しようとする官邸はホントに腐ってるとしか思えない。

 いま住んでる英国では、メディアは日々健全な政権批判を繰り広げてるように見えるし、政権側も批判をそれなりに受け止めながら対処してるように思える。つまりとても成熟した民主主義社会だと感じる。

 その意味では、日本の現政権には、民主主義社会で求められる謙虚さが1ミリもない。そんなことも、この映画を通して改めて感じた。

 ただ、映画は望月さん側からの視点しか描いておらず、リベラル派にしか響かない内容になってた気がする。政権側の人物や、政権寄りのマスコミの言い分も取材しないと、結局は独りよがりで一方的な内容だと思われてしまうのでは。

 森達也という人は、著作も読んだことがあるけど、どうもその辺の詰めが甘い印象をうける。ナチスから解放されたパリで市民の思考停止とナチ関係者へのリンチがあったという引用は、雰囲気に流されやすい日本国民に警鐘を鳴らしてるんだろうし、言いたいことは分かるけど、ちょっと突飛な印象を受けたし、安倍派の気持ち悪い市民だけ映してこういうことを描くのは、ちょっと違うんじゃないかと思った。

 あと、裁判所で無断撮影した森氏を望月さんが怒るシーンがあったけど、望月さんて司法担当が長いらしく、司法側の理屈に寄り添ってる辺りは、官邸ルールに迎合する政治記者と同じじゃんと思った。

 そんな問題点はいろいろあるけれど、この手の政権批判映画は日本では珍しいので、その点は評価に値すると思う。フィクションの方の「新聞記者」が期待外れだったので、この先こういう映画がもっと出てくることを期待してます。
ワイカ

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