こなつ

ダンサー そして私たちは踊ったのこなつのレビュー・感想・評価

3.8
スウェーデンの新鋭でジョージアにルーツを持つレヴァン・アキン監督の作品。
ジョージアの映画「花咲くころ」を鑑賞して、作中で少女エカが踊ったジョージアの民族舞踊があまりにも美しく、その踊りについてもっと知りたいとこの作品を鑑賞。

ジョージアの国立舞踊団の話ではあったが、第1線で踊るメイン団ではなく、その候補生の一員として青春を生きる若者たちの姿を描いている。稽古場も決して立派なものではなく、生活も楽ではない。ただ踊りに対する強い情熱で日々過酷な練習に取り組んでいる。

パートナーのマリと共に幼少期からトレーニングを積んできたメラブ(レヴァン・ゲルバヒアニ)。パートナーのマリは幼なじみでもあり恋人だった。家は貧しくて、夜はレストランのアルバイトをしながら家計を支えている。飲んだくれてばかりの生活で荒んでいる兄も舞踊団に所属しているが、真面目に練習に出てこない。ある日、カリスマ的な魅力を持つ新星のイラクリが舞踊団に入ってきて、今までエースだったメラブの立場が危うくなっていく。しかし、メラブの中で芽生えたライバル心は、やがて抗えない愛へと確実に変化していった。

この物語は、同性愛を真正面から描いている。1991年ソ連から独立したジョージア。国家としての歴史は浅いが、そこでずっと暮らしていた人々には、ソ連の影響も強く残り古典的な価値観が根強く、伝統を重んじる傾向がある。驚くことに、この時代に至っても、LGBTなどセクシュアル・マイノリティに対しては批判的であり、厳しい対応をとっていて、同性愛への反発や偏見はなお著しい。同性愛が国家の反逆とみなす人がいるようなジョージアで、この映画が公開されるに当たっては、大抗議行動が起き大騒ぎになったそうだ。「普通とは何か?」この作品でも、その定義が頭から離れない。

実在の国立舞踊団も協力を断ったというから、如何にこの作品が世に出るのが困難だったかが感じられる。主演のゲルバヒアニはコンテンポラリーダンサーで、演技の経験もなかった。監督の再三の説得に、社会の視線が厳しいのを承知でリスクを顧みず出演した勇気は、やはりヨーロッパの自由な世界に目が向いている若者だからだろう。

ジョージアの舞踊は、非常に男性的な踊りで、独特な雰囲気であり男らしさを強いられる。メラブを演じたゲルバヒアニは、ダイナミックな踊りをするが外見的には細く弱々しい。メラブの繊細な揺れ動く気持ちを非常に魅力的に演じている。

ラストの踊りは圧巻だった。女性的なしなやかな動きを入れることによって、自分らしさを貫いた表現をしている。まるで芸術は国家のものではないと言わんばかりのパフォーマンス。

メラブのイラクリへの想いを知って嫌悪感を顕にしていたマリと、弟に無関心だと見えた兄ダウィドが、最終的にメラブの一番の理解者になってくれた事が物語の大きな救いのようにも感じた。
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