田山信行

はるヲうるひとの田山信行のレビュー・感想・評価

はるヲうるひと(2020年製作の映画)
-
佐藤二朗待望の監督第2作。
“置屋”と呼ばれる離島の寂れた漁村の売春宿を経営する兄弟と女郎たちの壮絶な生を巡る話。主に福田雄一監督作で見られる様なコミカルなイメージが佐藤二朗氏のイメージかと思うがそれとは全く違う世界を見せる。コミカルな一面に隠れがちではあるけど佐藤二朗その顔つきはコワモテである。何を考えているか読み取れないその表情の裏には決して可笑しみだけではない複雑な内面が拡がっているのだ。

風俗島というような設定は今の時代に非常に挑戦的ではありつつ少し前時代的という感じだがこの設定自体のリアリティは重要じゃなく、そんな抜け出せない日々の地獄の中を這いつくばる様に生きる人間たちが焦点。それは今この現代を生きる我々に向けられているものだと思う。

どれだけ糞にまみれていようが、それでも世界は、生きることは美しいものなのだと。佐藤二朗が人間の業の深さや滑稽さを体現しながらも堂々と謳い上げる人間賛歌。それを渾身の演技のぶつけ合いで表現しようとすることこそが佐藤二朗のテーマなのではなかろうか。

舞台劇が元となっている映画は役者の掛け合いなどが明らかに舞台っぽく感じられてしまいコレは映画より舞台で観た方が面白いんだろうなぁ……と思うことしばしばだが、この作品ではそう思わなかった。離島の土着的なロケーションの魅力やクローズアップで捉えられる役者の芝居。終盤の山場で山田孝之が見せる様々な感情渦巻くえも言われぬ渾身の表情はあれはカメラでしか捉えられない。確かに映画でしか醸し出せない魅力がちゃんとある。映画的技法がちゃんと積み重ねられていると。オリジナルの舞台を観ていないので比較は出来なんだが。脚本協力に城定秀夫氏がクレジットされていた。

コロナに陥らなければ映画以外にも趣味を拡げようと思って舞台も観に行こうと考えていたことを思い出した。映画以外の知見を少し拡げたい。

佐藤二朗が愚直に表現してみせようとする世界は大変に魅力的でそれが色濃く出るであろう監督作にはこれからも期待。
田山信行

田山信行