西部開拓時代の未開の地でクッキーを売って財をなそうとする男二人の友情を描く、ケリー・ライカート監督最新作。前半が少々退屈だったんだけど、クッキー販売を始める中盤から俄然面白くなる。持たざる者がそれでも希望を捨てずに前に向かおうとする姿にジーンときた。世間からはじかれた男二人の美しい友情に「スケアクロウ」を連想した。
冒頭で犬を連れた女性(「ウェンディ&ルーシー」!)が2体の白骨死体を掘り当てるところで、すでに結末が何となく予想できた。ここから罠猟の集団に雇われてるクッキーが仲間に疎ましがられてる場面に移り、彼がロシア人に追われてるらしい中国人のキング・ルーをかくまうことで二人の友情が始まる。いったん離れ離れになった二人が市場で再会し、地域の有力者である仲買人が船で運んできたこの地で初めてとなる牛(=タイトル)のミルクに目をつけて、クッキー販売で一儲けしようとする展開にワクワクする。
クッキーがクッキーを作れる(駄洒落か!)ことを知ったルーが、仲買人の牛からミルクを盗むことを思いついて、この禁じ手が市場の人々に受けて売れまくるというのが「ヴィーガンズ・ハム」を思わせた。こんなことを続けてたらいつかまずい事態になるのは目に見えてて、お茶会用の菓子を頼まれたクッキー達が、仲買人の「牛が全然ミルクを出さない」という嘆きを聞いた直後、クッキーが何度も会ってる牛に懐かれてる気まずさがギャグ演出。
二人が追われる展開になってからの緊張感が半端なくて、普通だったら相手を見捨てて逃げ出すところを、危険を犯してそれぞれアジトに戻ってくるのが胸熱。ここでルーを見つけて付け狙う男が、クッキー販売が軌道に乗った頃に最後の一個を横取りされた若者というのが「食べ物の恨みは深い」のギャグ演出(2回目)。ラストシーンが冒頭に繋がるんだけど、あの冒頭を見せておくことで、直接的な映像を入れずに美しい友情のまま終わらせる演出が秀逸。