耶馬英彦

ファースト・カウの耶馬英彦のレビュー・感想・評価

ファースト・カウ(2019年製作の映画)
3.5
 ケリー・ライカート監督の感性が面白い。登場人物はほとんど男で、開拓時代の男たちの頭の中には金儲けと食い物と女のことしかない。それに暴力で他人を蹂躙することだ。他人に暴力を振るうことのハードルが現在よりもずっと低かった時代である。人の命も軽かった。

 料理以外に何の取り柄もないクッキーは、人から雇われるだけで生きてきたが、商売上手な中国人がクッキーの料理で儲けることを思いつく。しかし金はない。ではどうするか。
 単細胞の男たちの裏を書いて商売するところは面白いが、危険だからいつまでも続けてはいられない。元手ができたら西海岸の都市に行って商売を広げようとするのだが、最後のひと稼ぎの準備をしているところに陥穽が待っている。

 人生はうまくいかないものだ。それでも生き延びて一旗揚げてやろうという男たちの姿は、愚かではあるが愛おしさもある。身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ。中には命がけで成功する者もいるだろうが、命を失う者たちも数多くいた。死んでいった無名の男たちにも、それなりの人生があったのだ。
 本作品は2019年に製作されている。なかなか味わいのある作品だ。同じライカート監督で2023年に製作されたミシェル・ウィリアムズ主演の映画「ショーイング・アップ」も観てみようと思う。
耶馬英彦

耶馬英彦