すずき

ファースト・カウのすずきのレビュー・感想・評価

ファースト・カウ(2019年製作の映画)
3.4
アメリカ開拓時代。
料理人のクッキーは、ロシア人に追われていた一攫千金を夢見る中国人・ルーを助けた事がきっかけで意気投合する。
開拓されたばかりの集落には、まだ物資も少ないが、毛皮売買によって狩人達の間でそれなりに銀貨は潤っていた。
中でも金持ちなのが、その毛皮を買い取る元締めの商人で、彼は紅茶に入れるミルクの為に一頭の雌牛を飼っていた。
2人は牛からミルクを盗み出し、それを材料にしたスイーツの販売で一儲けを企むが…

インディペンデント映画界で高い評価を受けていた(らしい)、ケリー・ライカート監督のA24配給作品。
2020年の映画だけど、日本では3年遅れで公開。
さてどんなもんや、と思い鑑賞に至る。

まだ開拓が進んでおらず、自然の中で生きるようなアメリカ開拓地の風景が印象深い。
森の中でキノコやドングリを拾い、罠にかかった小動物を捕まえて生きるスローライフな生活。
ゲームの「どうぶつの森」とか「牧場物語」とかの牧歌的な空気感を感じた。
いや実際には不衛生で臭そうだし、病気にもなりそうだし、飢えと冷えで死にかけたりするだろうけれど、劇中の2人の生活は楽しそうだ。

あまり良い生活ではないだろうに、2人が楽しそうな理由は、一つは夢がある事、そしてもう一つはLOVEがあるからだろう。
劇中で2人の関係は友情とされ、ゲイだとは名言されていないが、意図的に恋人同士のように表現されているように思える。
その意図やストーリーの意味する物は正直私にはよう分からんが、男同士のこういう関係を見るのは嫌いじゃないわ!

主人公のクッキーが凄く女性的に描かれている。
名前もなんか可愛いし、硬いパンに飽きたから甘いスイーツを作るわ!なんて、おっさんとは思えぬ発想。
ねぇ牛さん、お元気?なんて話しかけるし。
そして決定的なのは、ルーの家に招かれた時、火を起こす為に薪割りするルーを横目に手持ち無沙汰になったクッキーは、家の掃除を始め、そのうえ野花を摘んできて部屋に飾る!
他人の家で、何も言われてないのに掃除するアメリカ人男性なんている?
監督は間違いなく、彼を女性として描いていたと思うなぁ。

そんな感じで、私はこの映画をスローライフ恋愛映画として楽しみました。
多分作品の意図するものとは違うのだろうけれど。
ラストシーンも、冒頭に繋がると考えると悲劇なんだけど、なんとも多幸感に溢れる悲劇か。
「ミッション・8ミニッツ」のクライマックスのような、この瞬間が永遠に続く…ような雰囲気が良かった。