西部開拓時代のアメリカで、タピオカ屋ならぬ「揚げドーナツ屋」で一旗あげようとしたデコボコ男性コンビ2人の悲喜劇。
現実世界で人が理不尽に死にすぎていると、暴力的な映画より牧歌的で、ゆったりと進行していく作品を観たくなるもの。
そんな気分の時にぴったりの作品。
主人公である料理人クッキーのキャラクター造形が素朴で憎めないところが魅力的。
西部開拓時代の荒々しく粗野な男どもとは真逆で、心優しく(ひっくり返ったトカゲを🦎裏返してあげたり、預かった赤ちゃんをあやそうとする。)、争いごとを好まない優男。
そんな優男のクッキーは、森で出会った素っ裸の中国人(キング・ルー)にも優しい。
アメリカンドリームを夢見て移住したものの、これといった儲けの種も見つからず、衣食住もままならない貧しい環境の中出会った2人が、どう助け合って生き延びていくのか?というのが話の推進力。
貧しさの中、一発逆転を狙う野心家の中国人キング・ルーの提案で、イギリス人の仲買商の飼っている雌牛の乳を盗み、揚げドーナツを作って一儲けしようとするという展開はなんとも寓話的。
ここで、冒頭の大河を横切る巨大タンカーと筏に乗せられてくる雌牛(ファーストカウ)のシーンが重なるという上手い演出。
原住民のインディアンから土地や資源を奪い、領土を拡大していく白人
↓
その白人の雌牛から乳を奪い作ったドーナツを白人に売る移民という構図
を描くことで、資本主義の円環構造を表すとは。
(穴は空いていないけど)ドーナツなのはそういうことなのか〜!奥深い!
そんなドーナツの印象的なイートシーンは、イギリス人仲買商(トビー・ジョーンズ!)が、故郷のドーナツと同じ味だと懐かしそうに頬張る姿。
(はちみつの上ににシナモンまでかけるなんて、そんなん美味しいに決まっとるやろが〜い!🍩🍯)
めちゃくちゃ美味しそうなシーンなのに、盗んだ牛乳のことがいつバレるかと、ハラハラしながら見守った。
イギリスの仲買人の客人として招かれたフランス軍人に提供した、"ブルーベリーのクラフティ"も、さらに追い討ちをかけるようなメニューで笑ってしまった。
(鑑賞後レシピを見たら、これまた牛乳をたっぷり使うのであった…🐂🥛)
盗んだ乳の代償を払うことになるラストへの展開は、オープニングの現代パートですでに分かってしまっているので、切ないが
持たざる者であった男性2人がいつか夢を叶えようと支え合う姿は、
「鳥には巣、蜘蛛には網、人には友情」
の詩がジンワリ沁みる、なんともあたたかい作品であった。
キング・ルーが言っていたように「商売は引き際が肝心」
この作品で、ブームが一瞬で終わり消えたタピオカ屋の事がチラつくとは思いもよらなかった。