Sari

罪と罰のSariのネタバレレビュー・内容・結末

罪と罰(1983年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

アキ・カウリスマキ監督26歳、驚異の長編デビュー作。
ドストエフスキー不朽の古典文学「罪と罰」を現代的に翻案。

食肉解体工場で働く青年ラヒカイネンは、ある日の夕方、ある中年男の部屋を訪ね射殺する。
そこに現れた女・ エヴァは驚きながらもラヒカイネンを逃がす。
エヴァはラヒカイネンに自首を勧めるが、彼は拒否する。その後もラヒカイネンは堂々とした態度を貫き、まったく罪の意識を感じることがなかった。


静かに淡々と進む物語。後年のカウリスマキ作品に見られるオフビートなユーモアはないものの、カウリスマキ節とも言えるその独特の寡黙な作風が既に完成されている。

ストイックなまでに抑制された台詞、感情を表に出さない人物たちとは対照的に饒舌に語りかけるロック音楽、その抜群の選曲センス、不思議とカウリスマキ映画に集まってくるらしい印象的な顔の役者たちは、一度見たら忘れられない。

『マッチ工場の少女』と同様、冒頭に淡々と映し出される食肉解体の工程。機械で切断される肉塊、そこから出る小さな肉片、排水溝に流れる血液…見つめる青年。
 
古典文学「罪と罰」は、ヒッチコックでさえ映画化を躊躇したと言われる。
確かにヒッチコックが撮っていたら見事なサスペンスになっていたのかも知れないが、社会での孤独や、生きることの無常というロシアという国のドストエフスキー的な重苦しさは表現し得なかったのではないか。

この映画はアキ・カウリスマキが影響を受けた重要な作家の一人である、ロベール・ブレッソンへのオマージュをあらゆる面で感じさせる。

ブレッソンは『やさしい女』『白夜』でドストエフスキー作品を現代のパリに移して映画化したように、カウリスマキは舞台を現代のフィンランドに移して青年の罪の意識を描いている。

青年にとっての罪とは…

「...俺が殺したかったのは〝道理〟だ。
人じゃない。人殺しは誤りだった。...」

本作の後、久々に観たくなり何度目かの再見をしたブレッソンの『ラルジャン』。トルストイ原作でありながらも、その主題からはブレッソン的「罪と罰」なのだと解釈した。

2022/06/27 DVD
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