大大

プリズン・サークルの大大のレビュー・感想・評価

プリズン・サークル(2019年製作の映画)
4.5
様々な罪で収容されている受刑者が、自己の成長の為に、対話を通して学ぶカリキュラムに参加する。
自分の人間関係、求めていたもの、感じないようにしていたこと、もう一人の自分の存在に、受刑者たちが気付いていくドキュメンタリー。


▼「自分こそ被害者だ!」

▽犯罪を犯すに至った人たちの共通項が明白

▽親からの愛情を受けることに絶望している、家の外でいじめられた、安心できる場所がない

▽犯罪やそれに関連する行動は、愛情飢餓感や、自分の劣等感を感じないようにすることが、強い動機になっている

▽親や周囲から受けた傷は不条理なものであるし、罪とは別にして、寄り添うべきところだと思う。

▽カメラのまえにいる手前、被害者もいるからとても言えないだろうけど、心の底では「自分は悪くない、自分こそ被害者だ」と叫んでいるのを感じた

▽そんな受刑者の心の叫びを感じ取れる、砂のアニメーションの表現力、すごすぎる。

▽諸悪の根っこは、暴力。無自覚に連鎖してしまう。その連鎖は、処罰で断ち切ることはできない。


▼自由を奪って罰することで、立ち直れるようにはならない

▽立ち直るには、自分が渇望していることの気づき、誰かからの愛情を実感できること、社会のなかにいる安心感が必要

▽TCというカリキュラムは、それらを受刑者の心のなかに育むことを目的にしているのが伝わってきた


▼「幸せになる資格はないと思っている自分」と、「幸せになってもいいじゃないかと思っている自分」とを対話させる場面は素晴らしかった

▽自分の中で、対立が起こっているのを、正面からぶつける

▽その姿を見ると、自責の念に駆られている自分のほうが圧倒的に大きく占めていることがわかる

▽誰かを不幸にした事実があっても、それでも自分の幸せを願う、人間のもつ自浄作用というか、強さを感じる。生存本能ともいえる。

▽そして、幸せになってもいいと実感して生活に戻ることで、再犯の可能性は大きく下がる。


▼ 受刑者が自分の犯した犯罪者を演じて、被害者役を演じる受刑者たちと対話するハードさよ・・・。

▽自分のしたことで相手やその周囲に人たちに、どんな傷を与えたかに向き合うのはしんどいけど、そこをスルーして、自分の幸せをイメージすることはできない。

▽向き合いきった先に、幸せをイメージできる。


▼質問が飛び交うから知らず知らずに、観ながら自分のことを考える

▽傍観している側から、対話に参加している感覚になってくるところがおもしろい

▽向き合うべきものから目を背ける弱さは、誰の心にもある。愛情を求めるのは誰だって同じ。だから、たとえ罪を犯していない人が観ても共感できるんだと思う。


▼愛情を受け取ったり与えたりできるスキンシップが大事になってくるが、刑務所のなかでは、握手すら違法行為という事実が悲しく映しだされる

▽本質を見極めて社会も受刑者もメリットがある形を目指す民間企業に、国の古くからのシステムは、追いついていないことがよくわかる。

▽TCを受けられる受刑者は、全体の1/10000しか受けられないという衝撃。

▽欧米では60年台から行われてきたメソッドなのに、まだこれしか実践できていない日本。鎖国かよ。


▼ラストには、そんな息苦しい刑務所の制約の壁や、受刑者のなかの心の壁を超越する感動がある。

▽刑務所内の撮影上の制約を、カタルシスの効果を生むために利用するなんて。素晴らしい。


▼仮設の映画館で鑑賞しましたが、観客も制作者も映画館も、WINーWINになる仕組みが、素晴らしい!
大大

大大