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もちのmasayaのレビュー・感想・評価

もち(2019年製作の映画)
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大切なことを忘れない為に、語り継ぐ。おばあちゃんの優しさも、仲間との思い出も、村を守ってきた祈りも。岩手一関市に息づく豊かな伝統文化を背景に、廃校間近の中学校に通う少女の目を通して描く、現在の北国の四季。自然体の主人公の心の動きが眩しかった。

一関には「もち暦」といって年に50通りもの餅を食べる行事があるそうで、餅が生活に密接に関わってくる。餅を作り食べることは人と人の繋がりを深めること。人々が先祖から大切に伝えてきた思いがそこに託されてきた。

有名な鹿踊りや、中学生たちが文化祭で披露した郷土の踊りも印象的だった・・。主人公の少女は「本人役」なのでいま継承しなければ永久に失われゆく文化への危機感を当事者として感じながらも、一方で都会に旅立つ若者に幼い思いを寄せる時の心の繊細さも見事に演じていた。

地方文化ドキュメンタリーみたいな雰囲気ありながらも、友達との会話の自然さだったり好きな人と2人きりになったら完全に無口になったり、現実の中学生がそこに居て、まるで天然コケッコー岩手版で眩しい眩しい、ある意味多層的な映画でどっちが好きな人にもしっかりおすすめ出来ます。

映画観てて一番びっくりしたのは、一関市内に2008年の「岩手宮城内陸地震」で落橋した祭畤大橋の遺構がそのまま(折れ曲がって落ちた状態で)残されているという話。東日本大震災のインパクト強すぎてこちらに住んでいたら名前すら覚えてないような地震で大きな橋が落ちたこと、教訓を語り継ぐ為にその遺構が残されたということ。言葉や文字だけでない、形で残すことの意味を知る岩手一関の人々の考え方を示してるような話だった。映画の一場面として取り入れられたことにも、そういう意図があるのだろうね。

あと登場人物がみんな実際の地元の人なので喋り方がセリフじゃなくて実際に喋ってる言葉や間合いなのがすごく新鮮だった。役者さんがやるとどうしても演技がかってるし発声もしっかりしてしまう。訛りや滑舌の悪さで半分くらい聞き取れないこの映画と、どっちがリアルなのかなって思った
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