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雨月物語のEyesworthのレビュー・感想・評価

雨月物語(1953年製作の映画)
4.8
【清貧の原風景】

1953年公開の溝口健二監督の代表作。
上田秋成の著作『雨月物語』から『朝茅が宿』『蛇性の婬』の2編をベースに取り出して川口松太郎らが脚色。


〈あらすじ〉
戦乱の到来を機に大儲けを狙う陶工・源十郎と、侍として立身出世を夢見る義弟・藤兵衛は、それぞれの家族を連れて舟で琵琶湖を渡り都を目指す。そこで藤兵衛は手柄を挙げ夢を掴むが、誤ちを悟り、身近で大切な妻の存在に気づく。一方で源十郎は若狭姫という女性と知り合い、生活をともにするようになる。だが美しい若狭姫の正体は死霊であった。それを知った源十郎は若狭姫を捨てて故郷に逃げるが、彼女の怨念は執拗に追いすがる......。

〈所感〉
往年の映画評論家の権威である蓮實重彦が「日本人なら溝口健二を見なくちゃならん」という旨のことを述べたそうで。ここらで日本の巨匠でヨーロッパでも愛好家の多い溝口健二の代表作を鑑賞。戦乱の世の明日も拝めないような慎ましくひもじい生活の中にも、彼らの生き方や語り方には今の日本人からは失われた幽玄さが潜んでおり、「清貧」という言葉を思い浮かべた。清く正しくあるためにはある程度の金は必要だし、欲望は程々にしないといけない。現状に満足すること。足るを知ること。欲望と所有のバランスをとることが大切だ。さもなくばこの作品の源十郎と藤兵衛のように身近な人や物の大切さを見誤り、身を滅ぼしかねない結果となってしまう。この時代にしてカメラワークや人物の描き方が優れていて、なおかつ昔の人の考え方や風俗を知れて非常に勉強になる。そして、日本人であることを誇りたくなる一作であった。これを機に他の溝口作品も見てみたい。
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