Torichock

野球少女のTorichockのレビュー・感想・評価

野球少女(2019年製作の映画)
4.4
「野球少女」

イ・ジュヨン!
久しぶりな感覚、女優さんに惚れてしまった。
なんなんだ、この子。めちゃくちゃカッコよくて、めちゃくちゃキュートじゃないか。
こんな気持ちにさせる時点で優勝だ、もうめちゃくちゃ好きで調べまくっちゃった。

韓国の役者さんで、ここまで心を奪われたのはキム・ユンソク以来かも。

基本的には自分が踏みに行かないジャンルや立ち位置の映画なのに脚が向いたのは、もちろん予告からして普通のスポ根映画とは一線を画す感じはバシバシ伝わっていたというのもあるけれど、なにより自分の心を掴んで離さなかったのは、チラシに写るイ・ジュヨンの瞳だった。

映画本編が始まると、その瞳の変化にグイグイ引き込まれてしまった。
心ここに在らずな表情の瞳、妹を抱きしめるときの柔らかい表情の瞳、焼肉食べて笑顔になる瞳、友達と軽く口を叩き合ってる表情の瞳、立ち向かうことを当たり前だと思ってる表情の瞳…

決してセリフ数も多くないし、表情の変化が多いとは言えないのに、スインの瞳が雄弁に物語を語り引っ張っていくような、そんな強さを感じた。
こんなに「強い」女優さんはなかなかいない。

この物語、実はそんなに悪い人がいないのも特徴で。(最初のやつ以外)
彼女の行動に対して、否定的な考えを持つ人でさて、そのほとんどの人物が、気持ちはわかるけど・・・というスタンスが興味深いというか。
制度上は差別がないとは言ってるんだけど、それでも突き破ることのできない障害が目に見えてそこにある。
それに対して、スイン以外は諦め?と言うか、「とはいえ、どんなに夢であって、それが"制度上"は問題なくても、無理なのものは無理だよね」と思っている。

でも、スインは"夢"それ自体に疑いも迷いもない。
彼女が夢に対して挫折したり不安な気持ちを表すのは、速い球を投げるとかの野球の技術で、あくまで"夢を掴む手段"で、決して自分がプロになるということ・なれるかもしれないということ自体を一切疑ってない。いや、疑ってもなお、疑ってみせるものかという表情がほんとに素敵で強くかった。

個人的に印象的なシーンをあげるとすると、、、。
たくさんあって難しいな。
コーチに言い放った、ヤボったいけど最高にカッコいいセリフも惚れたし。。。

物語の後半で、決して悪くないプロ球団のマネージャーが、スインに対して誠心誠意な対応として、
「今までは女性であったことが短所だったかもしれません。しかし、今後は長所になります、あなたにしかできないことだから。」
と言った。

一見すれば、これは女性の社会進出の言葉のように見えるけれど、それが違うんだということを突き付けるスインがカッコよかった。

「女であることは長所でも短所でもありません。
私の短所は球が遅いことで、長所は回転数の多い球が投げれて勝てることです。」

そもそも、考え方が違うんだと。
そして、これこそが真っ当な社会なんだと。

どの世界にも「男〇〇」「女〇〇」「男のくせに〜」「女の子なのに〜」みたいな冠がつくような謂れをすることがあって、自分はずっとそれが違和感を覚えることがあった。
男とか女とか関係なく、クソッタレはクソッタレで迷惑な奴は迷惑だし、尊敬できる人は尊敬できるし、美しい人は美しい。
どんなことも何かを括ってモノを言う人間は愚かだと思ってた。完全な個別主義。

身体的な差で、競技それ自体に格差が生まれてしまうものは仕方ないことだったのかもしれないけれど、食や生活環境が変わった今の時代、もしかしたら人間自身が思っている以上に進化しているのかもしれない。

ジェンダーについての作品はたくさん観てきたつもりだけど、やたらとドラマチックだったり、稀有な人々のお話だったりが多かった中で、この作品はとても一般の人に距離も近く、野球を別のものに置き換えれば、めちゃくちゃ普遍的なお話だと思う。
すごく誠実で嘘がなくて、硬派な作品だと感じた。

とにもかくにも、イ・ジュヨンです。
「梨泰院クラス」始めちゃいました、ええ。
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