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チャンシルさんには福が多いねのslvのレビュー・感想・評価

3.8
仕事だけを生きがいにしてきた独身のアラフォー女性チャンシルさんが、失職したことにより突き付けられたのは、自分の置かれたどん詰まりな状況。

自分から仕事を取ったら何もなかったという喪失感とか、まるで自分だけ社会に取り残されたような焦燥感とかは、大いに自分も共感出来るところだし、現実にはわりとしんどいテーマだと思う。
だけど、チャンシルさんがそれをどう受け入れていくのかという過程が重すぎずコミカルに、時にシュールな描写も交えて描かれていくところがとても面白かった。

そして、アラフォーの映画プロデューサーというチャンシルさんの人物設定が妙にリアルだなぁと思ったら、この作品の監督自身がホン・サンスの映画プロデューサーだった方だと知ってとても納得。
なるほど、チャンシルさんは監督自身を投影した人物なのね。。
言われてみればこの作品自体の雰囲気も何となくホン・サンスっぽいというか、影響を感じる。
軽妙なのにリアル、時々シュールな雰囲気は、私的にはホン・サンスの『夜の浜辺でひとり』に近いものを感じた。
ホン・サンス作品のように癖になるような独特な魅力がこの監督にもあるかもしれない。

劇中でチャンシルさんが「あなたがやってきた仕事は誰にでも出来るような仕事だ、代わりはいくらでもいる」的なことを言われてしまうシーンがあって、これは本当にグサリときてしまったんだけど、実際に自分もそうだし、これを言われたら否定出来ないと言う人は多いだろう。
そんな状況に置かれた場合に、自分のアイデンティティーを保つのはけっこうキツいぞと思うと、やはりこれは身に迫るようなずっしりとした重みがあるお話でもありました。

でも40歳のチャンシルさんは、仕事にしろ恋にしろ、まだまだ色んな可能性があるはずだしやり直しだってきく、それはとても救いだと思えた。

そうだよ、これまでの自分を全否定することなどないんだよ、と共感しながら勇気を貰えたラストも良かった。
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