まず、主演の方の演技力も素晴らしく、特に顔面の演技は『時計じかけのオレンジ』のアレックスを彷彿とさせる狂気的だが壊れやすそうな脆さも見え隠れする。そして、所々の演出も独特で、生々しく、カッコ良さも感じる。
しかし、メインテーマとなりそうな箇所をしっかり表現できているかは少し疑問を感じた。作品のチラシ自体にも聖人か？悪人か？とあるように、観客にこの主人公は善か悪か問いかけ、葛藤を引き起こさせるような狙いがあることは分かったのだが、個人的な感情を述べると彼の聖職者としての行いに対し、良い印象を持てなかった。なぜなら、所々の態度に他人への見下しや、宗教的な活動をふざけた遊びとしてやっている様子も見られたからだ。
だから終盤の町の人々から慕われているような描写に対し、そこまで彼らと真摯に向き合っていたかなと疑問に思う。だから、私にとって彼はかなり悪人に近い印象にはなってしまって、善か悪かの心の葛藤のようなものは個人的には感じられず、残念だった。
しかし、そもそも宗教組織の体制に対しての反対意見を主張しているとも考えられ、加えて、現代社会において一度レールを踏み外した人間には救いがないということもまざまざと見せられている気がして、その部分で打ちのめされるのだ。
［2021年 15本目］
