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聖なる犯罪者のodyssのレビュー・感想・評価

聖なる犯罪者(2019年製作の映画)
4.0
【聖者と罪人のあいだ】

殺人を犯して少年院に入れられていた若者が、少年院を出て、遠い町の製材所に勤めるはずが、その町の聖職者に収まってしまい・・・という筋書の映画です。

実在の事件をもとにしているそうですが、そうかも知れないなと思いました。

特にこの場合、年少者が犯罪を犯して少年院に入れられて・・・という設定ですから、少年院で聖職者の説教に接して、自分もああなりたいと思うのは、自然なころだと感じられるんですよね。

聖職者になるためにはそのための学校を出なければならないわけですが、彼は自分の実体験をもとにした説教をして、地域の住民から好感を持たれる。いや、ありそうなことだと思いました。学校で教わる形式的な説教より、型破りの説教のほうが斬新で、地域住民の感性に訴える力を持つわけですよね。

この映画のもう一つのキモは、若者が来る直前に起こった交通事故。一台には若者6人が、他方には初老の男が乗り、正面衝突して全員が死亡した事件。この事件が地域住民の関係に大きな影響を及ぼしている。主人公は、教会の実務の仕事をしている若い女性(その兄がこの事故で死去)の助けを借りて、事件の真相に迫っていくのです。

このエピソードがバカにならないのは、教会の聖職者は地域住民との関係において存在が認められるのであり、したがって地域社会内部の事件と無縁であることはできない、という実態がはっきりと示されているからです。聖職者というと実生活の生臭さとは無縁の存在のように見えますが、実は地域社会のこのような側面と密接に絡んでいるんですよね。

それ以外にも、製材工場のオーナーであり町長をも務めている中年男との関係も、地域社会でのキリスト教の役割を暗に表現していて、真実味がありました。

というわけで、複数の視点から見て、深い意味を秘めた映画だと評価できるというのが、私の感想です。
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