垂直落下式サミング

カラー・アウト・オブ・スペース 遭遇の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

3.8
中二病のお姉ちゃん。いつものように湖畔でオカルトごっこを楽しんでいると、通りかかった男の人にみられて恥ずかしいっ。この子はホントに変な女なのか、それとも年相応の娘っこなのか、ドキドキっ!これが最初のサスペンス。足に五芒星書いて悪魔崇拝みたいなのやってるヤベー女は、家に帰れば健全な思春期娘の顔に戻ってくれるから安心しました。
でも、父親への一言で食卓がヒリついた様子に…。自然のなかで暮らすニコラス・ケイジ一家は、なんかしら問題を抱えた家庭らしい。序盤でキャラクターと状況を、ざっと一通り説明してしまう手腕がお見事。
その夜、よそん家のお父さんお母さんの情事を覗き見してるみたいな気まずい背徳感のなか、お庭に外宇宙からの厄災が降ってきた!ひとつ屋根の下、天体オタクの夜更かしお兄ちゃん、恐竜のぬいぐるみを抱いてトイレに起きる弟、窓の向こうにゆっくりとなにかが迫る。
理系の素養のあるふたりの兄弟とはちがって、スピリチュアル文学女子部屋のベッドの上で丸まって、ぐでえ~っとだらしなく寝るお姉ちゃんにトキメキ。ドント・トラスト・エブリワン。女子の部屋着みーちゃった!犬かわいい。アルパカかわいい。次の瞬間、紫色に発光する隕石ズドーンっ!ときて、この閉塞したポツンと一軒家に、おぞましい非日常がやってくる!このスピード感がアメリカンのムービーやでっ。
ダークSFの俗悪さをしっかりと抑制してアートフィルムに寄っているが、非ハリウッドのローバジェットで勝負してた『宇宙の彼方より』と比べれは、こちらはかなりエンターテイメントと呼べる作りになっている。腐っても主演ニコラス・ケイジですから。
ドイツ映画『宇宙の彼方より』は、インデペンデント映画祭で評判だったというから、ニコケイおよびオタクの作り手たちがみてないわけないよな。光の色はおなじ不気味な薄紫。本作は、色そのものが重要なのではなくて、その発光する何かが、人の気をふれさせるらしい。なるほどね。こちらのほうがわかりやすい。
異常なスピードで土壌を侵食するなにか。なかなか事態の深刻さに気づかない家長ニコケイ。調査員の若者と勝手に住み着いたジジイだけが真実に近づいているのに、ニコラス・ケイジ一家はまったくの無防備で家族は危険にさらされしてしまう。おかしくなっていく母親。井戸のなかの友達に話しかける子供。洗面台からじょばじょばとだだ漏らす血液。そして、ついに異形の存在がお目見得!親子のマッスルドッキングとアルパカキングキドラっ!
昔ながらのエイリアン来襲の驚異が、昨今取り沙汰される家庭の毒親問題が横並びに並走しながら、本当に取り返しのつかないところまで侵蝕されてしまう。神なき世界には、ストレンジャー・シングスなんて、なまっちょろい。そこには、誰も正気ではいられないほどの絶望だけがのこった。
アルパカの世話さぼりよったなおめーコノヤロウと倅を怒鳴り付けるニコケイ、ひと口かじったトマトを吐きだして激昂しながらゴミ箱にぶん投げるニコケイ、エンジンのかからない車をポンコツと罵りながら喚き散らすニコケイ、奥さんとはいつまでも恋人同士みたいだけど、子供たちにとってはいい父親じゃない。円満でない家庭は、こうも脆いのかと、不安をあおってくる。
お兄ちゃんの狙い過ぎてないボンクラっぽさや、オカルト大好きメンヘラお姉ちゃんの自傷癖も、しっかりと両親の気質を継いでいそうなもんだから救えない。彼のそのまた親父も…虐待の血は争えない。
こわいね。親と似てるのは、遺伝子を分けあってるから。身も蓋もないものほど、こわいものはない。