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辰巳のtakatoのレビュー・感想・評価

辰巳(2023年製作の映画)
4.3
 好きなドクターマクガイヤー氏がオススメしていたので、俺達のシネマート新宿に走って見に行った結果…、マジに今これ見ないなんて映画好きならありえんよ…案件の傑作でした。貴の「ジュブナイル」の子役がこんなんなっちゃって…。


 もはや世界の映画界におけるガラパゴス諸島と化した、ないない尽くしの日本映画界。そんな中でも才能ある監督が遺憾なく実力を発揮できる企画、有名じゃなくても力のあるスタッフキャストが揃いさえすれば世界のトップクラスと伍すくらいの傑作が出来るんじゃん!と、日頃は苦手な愛国心というか愛郷心がむくむくと湧き上がるの感じながら、向かいのおにぎり屋さんでシーチキンをパクついて良い余韻を味わえました。


 まずファーストショットから「これは並の作品じゃないわ…」と実感できるのは、映像の質が明らかに「映画」のそれにちゃんとなっているという点です。映画なのにどうにも安い映像だと画作りとか演出の前にもう萎えちゃうのですが、本作の映像は韓国映画トップクラスとためを張るくらい力がある!。


 出てくるのはむさい、同時に見れば見るほどに味が出てくる「良い顔(暗黒)」な人達ばかり、風光明媚だったりオサレだったりするスポットも映らない。それなのに本当に胸を打つショットが幾つも溢れていて、それらが物語の静と動と呼応して素晴らしい効果をあげている。だからこそ、単なる殺伐なバイオレンスだけじゃない、哀しみや切なさの甘すぎない表現に見事に到達している。


 本作の話やキャラは、正直そんなに目新しさや斬新さはありません、韓国映画で似たような作品あるんじゃないかなぁって感じです(終わらせ方は某超巨匠監督の大好きな作品を連想しました)。しかし、それはパクリということではなく、普遍的な型にのって作劇しているわけで、こういう作品ではどう語るか?、どう描くか?という手際や細部にこそ魅力が宿るのもの。本作はその見事だからなんかの亜流じゃなく、どっかで見たことがあるすぐ入れて、同時に深く心に残る逸品に仕上がっている!。


 メインの女の子の、韓国映画の女性キャラと同じ、なんか冴えない娘だなぁと最初は思ってたのに作品が進むたびにどんどん輝きを放っていく感とか、中盤で出てくるチンピラのボスのヨンドゥに通ずる愛すべき悪党感とか、悪役兄弟の狂犬ぶりとか、見れば見るほど私の大好きな(シネマート新宿さんお馴染みの)韓国映画の匂いが濃厚でこんなの好みに決まってます(終わり方はもっと早く切り上げちゃっても良かった気もしましたが)。


 それにして、「ベイビーワルキューレ」シリーズの阪本監督もですが、こういう才能ある方を見てると、日本じゃなくて韓国でやった方が良いだろうになぁ…って思っちゃうのが悲しいところです。


 これだけ実力ある人の作品が、他の国に比べて予算がない日本映画界でも更に予算がない状況で、公開館数も本当に僅かしかないってのは本当の悲劇です…。作中でも「今はみんな金に困ってるんだ。ただ、それだけだよ…」って台詞がありましたが、勿論金は昔ほどはなくても無駄に使われてるところは信じられないような状況があったりするわけで、もう少しなんとかしてよ…と思わざるをえません。コッポラも金に困って大変ですけど、金持ちの人せめてが一人くらいポンと出してやれよ…と。
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