螢

カサブランカの螢のレビュー・感想・評価

カサブランカ(1942年製作の映画)
4.0
実に巧妙なつくりをした作品。
王道展開なのに、細かな人物設定の妙が徹底的に活かされた、ラブロマンス映画にしてプロパガンダ映画という二つの顔を併せ持つ、名作映画。

舞台は第二次世界大戦下、1940年のフランス領モロッコの都市カサブランカ。
カサブランカは、ナチスの支配から逃れようとするヨーロッパの人々がアメリカに逃げるための経由地として通る土地で、そんな「亡命者」のためにビザを用意するブローカーたちが横行していた。
しかしその反面、ナチスに本国フランスを占領されてからは、当地もナチスのドイツ将校たちが幅を利かせているという、複雑な事情を持つ土地でもあった。

そんなカサブランカで、アメリカ人のリックは、バー兼賭博場を営んでいた。
彼の店に、ある日、亡命用のビザを受け取る約束をしたブローカーに会う目的で、チェコ人で反ナチス運動の指導者ラズロと、その妻イルザが訪れる。
実は、イルザは、リックがパリに住んでいた頃の恋人。パリがナチスの手で陥落した日、一緒にパリから脱出するはずだったリックとイルザ。しかし、イルザは彼との約束を破って姿を消したという過去がある。
突然の再会に動揺を隠せない二人。

そして、図らずも彼ら夫婦の命運を握る立場になっていたリック。そこに、ラズロを狙うナチスの将校シュトラッサーや、その支配下にいるフランス人の警察署長ルノーが関わってきて…。

ストーリー展開自体は、二人の男と一人の女を軸にした、ラブロマンスの王道系です。
しかし、実際観てみると、多国籍な登場人物たちの清濁入り混じる性格や過去、それぞれに秘めた信念など、背景的な設定の細かさがとてもうまく作用しており、実に良く出来た作品となっているのです。

例えば、一見、しがない流れ者の酒場の主人で、政治には無関心な、消極的時勢迎合者に見えるリック。
そんな彼にも、秘めた過去や闘志、情、彼なりの義や信念などを持っているのです。
それは、彼以外の登場人物も同じ。
最後の最後まで観ないと明らかにならない、意外な設定などもあって、最後まで楽しめます。

もともとは、恋愛映画の皮をかぶせた、アメリカおよび連合国側の反ナチスのプロパガンダ映画として1942年に制作された映画だったそうです。
しかし、却って、そのプロパガンダのために盛り込まれた設定のおかげで、人物像に奥行きが出て、恋愛的な哀愁だけでなく、制作から80年近く経った今でも楽しめる、味や深みのある作品となっています。

名作には名作と呼ばれるだけの理由はやっぱりあるなあ、としみじみ思えたよい作品でした。
螢