horaAya

すばらしき世界のhoraAyaのレビュー・感想・評価

すばらしき世界(2021年製作の映画)
3.7
良く比較されている『ヤクザと家族』より断然良い。覗き見る雪の外とクライマックスの呼応。ど真面目なのかと思いきや、コミカルさを損なわずに…というよりコミカルさでもって生きづらさや偏見をも表現する両義的な演出がずっと徹底されているのが見やすくて好き。「もしかして刑務所?」っていうセリフひとつとってもその言葉が生まれる前提となる複雑な実情が浮かび上がってくる。時の流れについても『ヤクザと家族』とは違い、客観ではなく主観で描き、その変化と不変を対峙させることで内面にメスを入れていく。数層に渡って覆い隠される(明確に語られはしないながらも)原体験的な外傷と防衛→身体への転換が起こっていたのではないかと考えうる主人公の行動からは、抑圧と反発の衝突のもと、抑圧を薬という外圧に頼ることに限界をきたし瓦解するという心的な変遷の具現化を見てとれ、薬を社会そのものとするならば、「治療」を許さない社会という主題に対する表現が貫かれているのがわかる。『ヤクザと家族』に何が足りなかったのかがよく分かる。まあ、これ実質的にはヤクザ映画ではないけど。強風はあざといけど好きだった。
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