やまもとしょういち

すばらしき世界のやまもとしょういちのレビュー・感想・評価

すばらしき世界(2021年製作の映画)
4.4
「カタギに馴染むのは難しか」

「シャバは我慢の連続ですよ。我慢の割によかことがなか。でも空が広い」

やさしくてまっすぐな三上の「正しさ」と、社会のレールに沿って生きる人たちの「不正義」を見過ごす生き方の対比に苦しくなる。社会には理不尽も不正義も溢れていて、それが「普通」。三上は短気で暴力的だけれど、仁義に厚い。社会はそんな人間を「更生」しようとする。この世界はそんな欺瞞や不正義に満ちていて、残酷で理不尽で、あまり醜く、歪だ。

そんな世の中で暴力を行使することで人とつながり、社会と繋がってきた三上が、人から必要とされる喜びを「シャブを打ったみたいだ」と表現するのが印象的だった。人を変えられるのは人でしかない。三上が母に再会することで救われる展開でなかったのがよかった。三上とは何の関係もない人たちが手を差し伸べてくれて、チャンスを与えてくれたことに、この世界はまだまだ捨てたもんじゃないと思えた。そうやって変わることができた三上という人間の美しさに胸を打たれた。

そして、変わってもなお弱き者のそばに立てる三上がコスモスの匂いを吸って逝ったのにも感情が揺さぶられた(コスモスの花言葉は「移り変わらぬ気持ち」)。うまく言葉にできない感情が心に灯る素晴らしい映画だった。