ないで

第七の封印のないでのネタバレレビュー・内容・結末

第七の封印(1956年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

十字軍の遠征から帰還する途中、海辺で行き倒れていた騎士アントニウス・ブロックは、迎えに来た死神にチェスの勝負を申し入れる。勝負の間猶予を得た彼は、ペストが蔓延しつつある地に歩を進め、妻が待つ自分の城を目指す。

こ、これは、かなりチェス!?
求道的な騎士アントニウスは享楽的な従者ヨンスを連れていて、序盤はヨンスばかりが活躍する。もしや二人はナイトとポーン?最初はポーンしか動けないものね!この人は何の駒で今どこにいるのかと考えながら観るのはかなり面白かったです。ポーンがクイーンになる過程を描いた『鏡の国のアリス』に近いものを感じました。

従者ヨンスが元説教師に襲われた村娘を助けて連れていくことにするシーンは、彼がプロモーションしてクイーンになったってことなのかなと思いました。でも村娘はあまり納得がいかないままヨンスについていくようなところもあって、それは彼らが成った駒で本当のクイーンではないからなのかな、とか。

途中から合流する旅芸人のヨフが、幼子に歩き方を教える聖母マリアを幻視するシーンがびっくりする程美しくて、振り返ると幌馬車の中に自分の妻子が寝ている、というところがすごく良かった。妻子とアントニウスが知り合って野いちごとミルクを分け合う場面も印象的。局面が進むと偽のクイーンが増えるけれど、結局本物の白のクイーンは彼らだったのかもしれない。

彼らの幌馬車とすれ違っていくように描かれる火刑に処される娘の車は、死神側のクイーンだったのだろうか、それとも死神に囚われてしまったアントニウス側のクイーンだったのだろうか・・・もう少しで故郷の城へ辿り着くというところでアントニウスはとうとう死神からチェックをかけられてしまう。しかし死神とチェスをする姿に驚いたヨンス一家はこっそり逃げ出し、アントニウスはわざと死神の気をそらしてそれを手助けする。

つまりはアントニウスは自分を犠牲にして白のクイーンとクイーンが守る幼子のキングを逃した訳で、大局的には彼が死んでもこの勝負の決着はまだついていないのだ。だから彼は最期に一人天を仰いで祈る。そこに盤上を超越して存在する神を見出すことが出来たのかも知れない。そして逃げ延びた海岸で死神に引かれていくアントニウス一行を幻視するヨフは、クイーンとキングを守るもう一つの白のナイトだったってことなのかも。

『第七の封印』というタイトルはものものしいけれど、死が避けられない、チェックがかかった局面でどういう選択をするか、「君たちはどう生きるか」みたいな意味に近かったのかなと思いました。終盤には騎士アントニウス自身が城主のキングでもあったし、信仰に目覚めた死神、ビショップでもあったように取れる。彼が命をかけて逃したナイトとクイーンが海辺に辿り着くというラストが、オープニングの配置と完全に対応しているのもすごいと思いました。
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