KANA

第七の封印のKANAのレビュー・感想・評価

第七の封印(1956年製作の映画)
3.8

ベルイマンの作品を観るのはものすごく久しぶり。

中世のスウェーデン。
長年に渡る十字軍遠征から帰国し、帰途についた騎士アントニウスの前に死神が現れる。
アントニウスは、勝てば死は免れるという条件のチェス対決を挑み、死神はそれに受けて立つ。

『第七の封印』って黙示録の内容の一部から付けられたそうで、いかにもとっつきにくいタイトルだけど、意外にも観やすかった。

ひょっこり現れたコワモテ&黒装束の死神。そのシュールさには思わず声を出して爆笑。

チェスは中断しながら進め、妻の待つ城へ向かう帰途、目の前に映るのはペストや魔女狩りや落ちぶれた聖職者などの終末世界。
十字軍の苦労は何だったのか?暗黒の世界で自分も死に向かっているアントニウスは神の存在を確かめたくてひどく苦悩する。

話とは別に、そのゴシックで退廃的な世界観や神秘主義っぽい表現はアートとしてとても好き。
立ち込める暗雲を背景にシュールな白塗り顔の死神とのチェスは、白黒のコントラストが妖しく魅惑的。(ギャグと紙一重ともいえるけど)

出会った旅芸人の夫婦(+赤ちゃん)は唯一死の香りがせず、見ててほっこりと和む存在。
キリスト教信仰はしているものの、そこにすがりつくような生き方はしていない。

以前読んだ本で
"しあわせになれる人は「しあわせになりたい」などと思う状態にいない"
とあったのが印象的で、この旅芸人家族はまさにその好例だと思った。

言語の迷宮に入り込んで左脳ばかりが働いてしまうと、貧弱な結果しか生み出さないのが世の常。
アントニウスもきっとそう。

都合よく捻じ曲がった宗教観に振り回され、死神にまとわりつかれる彼は哀れな気もするけど、結末には容赦なく不条理が。
ラストの死にゆく者たちの踊るような行進のシルエットはベルイマンのシニカルな視点にもとれる。

神を失った現代人の不安を描き続けたというベルイマン。
ゴダールもスピルバーグもウディ・アレンも敬愛してる映画作家とのこと。
まだ5作品かじった程度なので少しずつ開拓していきたいな。
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