ぎー

ファーストラヴのぎーのレビュー・感想・評価

ファーストラヴ(2021年製作の映画)
3.5
【堤幸彦特集3作品目】
テーマは家庭で幼少期に性的に恵まれない環境で生育された女子について。
圧倒的に暗かった。
特に序盤はその救われなさ、暗さになかなか乗り切れなかった。
どんなに辛い境遇、厳しい環境でも頼れる人がいればだいぶ違う。
実際そういう作品は多い。
この映画で芳根京子が演じた女の子は残念ながらその最後の砦である家族までもが味方になってくれなかった。
こんな辛いことがあるだろうか。
一見彼女の家庭は裕福で、なに不自由無いように見えたりする。
なんなら女子アナウンサー志望の恵まれた子だ。
それでもなおそういう境遇にある人がいる可能性があるってことを、まざまざと見せつけられた。
そして、結果、彼女はそういった境遇や辛かった想いを吐露することができて、その吐露だけでかなり救われたと感想を言っていた。
当たり前のことだが、社会として、家族や近しい人々に本質的な悩みや苦しみを吐露できない人々の相手となる人や機会や組織を用意することがいかに重要なことかを思い知った。

それにしても北川景子が演じた臨床心理士は素晴らしい仕事をしていた。
もちろん、今辛い境遇にある人がその事を吐露することも凄まじく勇気や労力の必要なこと。
でも、彼女自身は今は家庭もあって、幸せな日々を送ることができている。
そんな中で取材対象であり容疑者であり被害者である女性の吐露のために、自身のあまりにも辛い過去を自ら吐露して寄り添う。
これはかなりの勇気と労力を必要とすること。
容疑者の女性の判決は結果的には覆らなかったが、臨床心理士のおかげで彼女が大いに救われたのは間違いない。

何より容疑者聖山環菜の境遇は想像を絶する。
多感な時期に、性的に嫌な事をさせられ、それを拒否しても両親は全く聞く耳を持ってくれないどころか、むしろ叱責してくる。
聖山環菜を演じた芳根京子の演技力が爆発していたのも相まって、その辛さがありありと伝わってきた。
特に法廷で心情を吐露する場面は圧巻で、辛くて見ていられなかった。

最悪だったのが環菜の母親。
彼女自身もリストカット癖があり、窺い知れない複雑な事情があるのだろうが、それは彼女が本来守らなければいけない最愛の娘を見捨て、寄り添わない理由には全くならない。
木村佳乃のキャスティングも相まって、印象は最悪だった。(つまり、木村佳乃の演技は素晴らしかった。)

この映画で一つ衝撃だったのが窪塚洋介の演技であろう。
『GO』とか『ヘルタースケルター』の尖ったイメージだったけど、本作では彼は救いだった。
あまりにも辛い聖山環菜の物語を見た後に、窪塚洋介演じる写真家の、数々の幸せそうな家族写真を見ると、自然と涙が溢れてきた。
当たり前に思っているけど、家族皆が幸せそうに笑っていることがいかに幸せなことか。
その事を痛感した。
そして彼の原点となった、実際の彼自身の家族写真のエピソード。
全く笑わない、血の繋がりのない弟を、写真撮影するときに笑わせるためにくすぐる事。
こんな素敵なエピソードはない。
弟の弁護士はこんな素敵なお兄さんがいたから救われたのだろう。

最後になるが、勇気を持って証言台に立った容疑者の元恋人(?)の青年の姿勢には思うところがあった。
彼は贖罪の気持ちから証言台に立ったと言った。
もし彼が悪人なら世間は悪人だらけだ。
皆見てみないふりをしている。
立場の弱い幼い子供を食い物にする大人のクズさ。
それは皆知っている。
家族は絶対に子供を守るべき。
それも皆知っている。
でも、当然のことではなくって、苦しんでいる人たちが大勢いる。
でも僕らが必ずしも行動できているかというと、そうではないだろう。

作品構成上やむを得ないが、序盤の暗さと冗長さだけが惜しいところか。
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