けんぼー

由宇子の天秤のけんぼーのレビュー・感想・評価

由宇子の天秤(2020年製作の映画)
4.3
2021年鑑賞123本目&128本目。
観ている人の「正しさの天秤」が揺れ動かされる。
現代社会に一石を投じる本年度No1レベルの傑作邦画。春本監督は今後も追い続けよう。

まず、端的に本作がどんな映画かというと、「正しさ」についての物語なんです。

ドキュメンタリー番組の監督である主人公「由宇子」は「真実」を求めて、とある高校生と教師の自殺の真相を追って取材をしているんですが、学習塾を経営する由宇子の父「政志」についての衝撃の「事実」が塾に通う女子高生「萌(メイ)」から告げられ、由宇子の中の「天秤」が揺れ始めるわけです。

政志を演じているのが名バイプレイヤーの「光石研」なのですが、あの雰囲気からは考えられない、耳を疑う事実がメイの口から告げられ、劇中の由宇子と同じく私自身も最初は意味が分からなかったです。「え?どゆこと?」って。

そこからは主に二つの軸をもとに物語が進みます。由宇子が追う「高校生の自殺」の真相と、政志とメイの問題。

高校生の自殺について関係者にインタビューをしていく中で、「行き過ぎた報道」が当事者を追い詰めたのではないかという疑いが出てきます。報道によって当事者を、当事者家族を「叩く」人が増え、それを苦に人生を壊された人がいる。つまり、報道が無実の人を殺したんじゃないか、と。
当事者家族にとって事件はまだ終わっておらず、現在進行形で、日々怯えながら生活している姿がとてもリアルに描かれていて胸が苦しくなりました。

そして政志とメイの問題においては、自らも「当事者家族」という立場になってしまった由宇子。

「家族として、何かできたことはあったと思いますか?」
インタビューの中で当事者家族に質問している内容が、まさに由宇子が自分自身に問いかけているようになり、平行する二つの事柄が徐々に重なっていく。

また、由宇子が取材の中で見えてきた「真実」を伝えようとしても、「テレビ局側」は自分たちに都合の悪いことは報道したがらない。そのために製作者の意図で「曲げられていく」真実。

物語の最後に浮かび上がる事件の真相と由宇子と政志、そしてメイの行く先。

劇中で何度か、由宇子が自分のスマホのカメラを相手に向けて問いただすシーンがあります。
最初は、自分の父である政志に向けて。
次は、一緒にドキュメンタリーを作ってきたけど、局の意向に沿って真実を曲げようとする「富山」に向けて。
そして最後に由宇子がカメラを向ける相手は誰なのか?

「目の前の情報は真実なのか?」
「常に正しい人など存在するのか?」
「人間はそれほど強く完璧な存在なのか?」
春本監督が問いかけるテーマはこの作品を通じて確実に観客の「天秤」を揺れ動かします。

間違いなく傑作です。

春本監督のインタビューなどを見て、監督の映画作りに対しての姿勢や考え方にもかなり共感できました。
今後もずっと追っていきたい監督です。

2021/9/26
2021/10/3観賞