麟チャウダー

藁にもすがる獣たちの麟チャウダーのレビュー・感想・評価

藁にもすがる獣たち(2018年製作の映画)
3.6
なんとなく伊坂幸太郎の小説みたいな楽しい映画だった。
視点の交代、引き継ぎで軽快に連作短編集の趣を見せる章立てや、伏線回収による時系列の整理など軽妙な物語展開が楽しかった。/

あんな札束の入ったバッグ見つけたら、さすがに怖い気もするけどなー。明らかに安全な、健全なお金じゃないでしょ。韓国の裏社会を舐めすぎでしょ、韓国の警察を舐めすぎでしょ。

大金を見つけた瞬間に、もう大金の持ち主や大金の出所などそのお金に関わるあらゆる裏の世界に足を踏み入れたようなもんで。大金を見つけたその瞬間から、一瞬で自分の命が危機的状況になるようなもんだから怖いって思った。
瞬間的に自分が生きる世界のルールがぐるりと裏返るってのがゾッとする。
自分の命が基本的には脅かされない道徳的なルールで生きれているんだけど、それが、一瞬で、自分の命が脅かされて当たり前のルールに切り替わるわけで。/

大金を手に入れて、夢や幸福を人生の見通しが立つという形で味わって人生に勝利したんだけど、それが取り上げられるっていう二重の絶望が最悪だなって思った。
手に入れた大金とその大金によって得られるはずだった未来が取り上げられる絶望と、不遇な人生にまた戻るっていう絶望として、理不尽な倍返しをされるのが不憫。

大金が手に入ることで、まだ手に入ってはいない輝かしい未来も手に入れたっていう錯覚まで獲得してしまうのが怖いんだなって。
未来の前借りでしかなくて、存在や実体のない未来が目の前にひとつの形を持って、物質としてまとまって手に入るって冷や冷やしそう。
目の前のこの大金は自分の未来を実体化させたものだって思うと、疑心暗鬼になるよねそりゃ。まだ存在してない未来が、そこに存在してしまうようなもんだから。
未来って手に入らないから未来が奪われることを実感できないんだけど、未来を手に入れることを実感できるっていうのがこれなのかなって思った。/

排水溝に液体が流れて行く章題の表示が、排水溝から液体が流れて行くっていう逆再生のアニメーションになってるのがなんとも。
物語の結末と、時系列の示唆と説明を同時に、順行と逆行を同時に、表現してる感じが洒落てる。

主人公の奥さんがトイレ清掃していて、その背後に次の章でメインとなる登場人物が現れてカメラの視点がそっちに移って行くのとか。
ニュース番組で報道されている事件が、各章を飛び越えて物語に関わってくるのとか。
タバコのちょっとしたエピソードとか。
ところどころ、伊坂幸太郎作品的な巧いなって感じの展開が楽しかった。気を抜いていたら、そう来るか!ってなれて面白かった。/
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