Jun潤

エルヴィスのJun潤のレビュー・感想・評価

エルヴィス(2022年製作の映画)
3.7
2022.07.12

予告を見て気になった作品。
エルヴィス・プレスリーについては特に知識も深くなく、むしろ浅いも浅いのですが、彼の伝記的なストーリーに、それに伴う社会や文化の変容など、鑑賞前時点で期待感は強めです。

世界史上最も売れたソロアーティスト第一位、エルヴィス・プレスリー。
彼はどのようにして生まれ、成功を手にし、何が彼を殺したのか。
オースティン・バトラーが演じるエルヴィスと、トム・ハンクスが演じるマネージャーのパーカー大佐が当時の音楽シーンを描き、当時の映像も使用してエルヴィスの生涯を紡ぐ。

いやぁ、これは苦い。
特定ジャンル以外は食指が鈍る洋画でも、音楽という共通語を使えばなんとかなると思っていましたが、まさかそれを逆手に使ったビターエンド。
エルヴィスの最期については昔『アンビリバボー』で見たことがあったのですが、パーカー大佐のモノローグからさらなる真実が明らかにされるのかと思わせてからのこれ、あらまぁ…。

序盤から年代を飛ばしてエルヴィスの幼少期や彼とパーカー大佐との出会い、途中に当時の実際の映像などを使いながらテンポ良く描かれるサクセスストーリー。
2時間半以上の長尺であっても、ダイジェストとエルヴィスの転機となるライブシーンとの割り振りがほぼ完璧で、作品としての緩急もしっかりついていた印象。

キャラクターもまた良かったですね。
当時の時代背景は実際のところよくわかっていませんが、他の作品などで見る分には現代の文化につながる新しいコンテンツの黎明期かつ人種差別の意識が色濃く残っている時代。
そんな時代だからこそ実際いてもおかしくない、いえ、実際にいたからこそエルヴィスの活躍と今日に至る音楽が存在する。
音楽の才能をもってヒーローとして生まれたエルヴィスと、ショービジネスの世界でのし上がっていくパーカー大佐。
時にすれ違う2人の価値観も、商業主義とただ自分が歌うため、ただ聞いてくれるファンのため、ただ自分が愛する家族のためという分かりやすい対立構造に仕上がっていました。

最初のライブシーンで、舞台に上がる直前まで不安で震えていたエルヴィスも、ステージに上がってしまえば自己を最大限に表現するアーティスト。
オースティンの演技もあってまるで別人かのように観えました。

パーカー大佐がエルヴィスを“黄金の檻”に閉じ込めたのか、エルヴィスが得た歌という才能は人間が羽ばたくための“ギフト”ではなく着地する脚を失った鳥のような“呪い”だったのではないか、それとも大佐が言うようにエルヴィスの歌を求めるファンの“愛”が彼を殺したのか。
個人的な見解としては、エルヴィスはステージ上で歌うことで自身を守り他人に向き合っていた、大佐は金への執着から稼ぐことに重きを置いていた。
そんな互いの矛がぶつかり合い、相手のことも盾で防いで受け入れなかった、そんな“矛盾”が互いを殺し合ってしまったのかなと思いました。
Jun潤

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