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鬼火のmasatoのレビュー・感想・評価

鬼火(1963年製作の映画)
5.0
芥川龍之介「歯車」を映画化したかのような、そんな雰囲気が感じられた。
境遇は全く違えど、死へ向かう人の心は、皆似たようなものなのかもしれない。

壮年を嫌悪し、若き日の幻影に囚われ続け、今に集中する事が出来ずにいる主人公アラン。
大人になってゆく旧友達と、心を青春に置き去りにしているアランの、越えられない程高い壁。

社会に出て適合していくとは一体どういう事なのか。一歩踏み外せば転落してしまいそうな、死の淵をゆっくりと歩む不安感と、どこか捨て鉢な気持ちがひしひしと伝わってくる。

コントラストの高いモノクロームの映像と、サティの静謐な劇伴がなんとも美しく、哀しかった。
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