りっく

モンスター: その瞳の奥にのりっくのレビュー・感想・評価

モンスター: その瞳の奥に(2018年製作の映画)
3.5
本作は映画学校に通い、映画製作を志す17歳の黒人青年のモノローグで構成される大胆な作劇が特徴的だ。脚本・監督・主演は劇中内の自分であり、法廷のやり取りを客観的に組み立て、ドラムロールを頭の中で鳴らしてみたりする。また、法廷の証言と呼応する形で、こちらも主人公がわざわざ回想と言ってから、彼と事件に関わる仲間たちとの過去のやり取りや、事件当日の彼の足取りが映し出される。

本当に彼が強盗殺人事件に関わっているかという真相と同時に、そもそも彼の証言や、彼が組み立てて見せているであろう映像が本当に信じられるものなのか、という二重に疑いの目を向ける必要があるという構成がスリリングで面白い。

また、彼は授業中に先生に次のようにアドバイスを受ける。“映画は画で物語を語るのではなく、序盤中盤終盤で構成されるもの。抽象的な映画は伝えるものがないと捉えられる。自分が記憶したいものを見つけよう”。だからこそ、ホンモノを求めてカメラを回し、被写体にカメラを向けることで関係を持ち、その世界に取り込まれていく。

本作の劇中でも、わざわざ黒澤明の『羅生門』を映画学校の授業で観る場面があり、人それぞれ見方が違うから同じ出来事なのに真実が異なることを説明する。自分の価値観が作品に投影され伝わっていく、それが映画の面白さでもあり、危険性でもある。主人公のことを、真実を伝えるジャーナリストではなく、話を作りたい人物だと検事が陪審員に説く場面が印象的だ。

本作は最終的に真相のようなものを明かす。彼は事件当日に犯行直前の知人2人にバッタリ会い、理由も言われず店に誰かいないか見て合図しろと言われただけで、無罪を勝ち取る。その後、人間はモンスターであるかもしれないという締めで幕引きするが、その点については踏み込み不足という印象を受ける。また信用できない語り部による、映画のフィクション性という面白いテーマを扱いながら、最終的な着地がはっきりと色付けされてしまった感があるのが惜しい。
https://www.shimacinema.com/2021/05/30/monster/
りっく

りっく