Dick

子どもたちをよろしくのDickのネタバレレビュー・内容・結末

子どもたちをよろしく(2019年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

❶相性:消化不良。

➋いじめ、貧困、DV、育児放棄、アルコール乱用、ギャンブル依存、性的虐待、家族崩壊、等の深刻な社会問題に焦点を当てた点は理解し評価するが、細かいことが気になって乗れなかった。

➌本作では2つの家庭がクローズアップされている。

①一組は、高卒の未成人でデリヘル嬢の優樹菜(鎌滝えり)、優樹菜の母・妙子(有森也実)、妙子の再婚相手でアル中DVの辰郎(村上淳)、辰郎の息子で中2の稔(杉田雷麟)の4人家族。
ⓐ辰郎は、アル中で、妙子と稔にはDVを、優樹菜には性暴力を振るう。そんな父に3人は怯えながらも反抗出来ない。
ⓑ妙子は、なされるがままで夫に依存し、子どもを守ることが出来ない。
ⓒ14歳の時から前父に性的虐待を受けて育った優樹菜は、4人の中では一番しっかり者だが、家計を助けるためデリヘル嬢で生活費を稼いでいる。
ⓓ稔は優樹菜を頼りにし、淡い想いを感じている優しい性格だが、一方では貧しい父子家庭の同級生、洋一を集団でいじめていた。

②もう一組は、稔と同級生の洋一(椿三期)、洋一の父で重度のギャンブル依存症の貞夫(川瀬陽太)の2人家族。
ⓐ上記優樹菜のデリヘルの運転手をしている父の貞夫は、重度のギャンブル依存症で、妻に逃げられ、息子の洋一と2人暮らし。ギャンブルとバーの女と酒に有り金を継ぎ込み、借金まみれ。息子の給食費も使い込んでしまう。自宅アパートは電気もガスも止められてしまう。借金総額は300万円に上る。
ⓑ洋一は深夜に帰る父を、食事もしないで待っている。父が用意する夕食はインスタントラーメンなので、自分で出来る筈なのにそうしない。中2になると言うのに、この父への依存性は信じられない。観ていてそう思った。

(注1)友人の意見1:
しかし、後日、ネグレクト問題に造詣がある友人と意見交換したところによると、
「子どもが無気力で親への依存度が高い状態が続くと、自分からは何もしない、何も出来ない状態になってしまう。それが根本の問題である」と。
言われてみればその通りかもしれない。自分が知らないことは他にも沢山あるのだと、軽はずみな判断を反省した。

ⓒ稔と洋一は、同じ中学の同級生で仲が良かったが、今は洋一は、稔を含むクラスメート4人から、陰惨ないじめを受けている。そのことを、先生も親も誰も知らない。親の中には市長とPTA会長と商工会議所の幹部がいる。

③両家庭とも崩壊し、貧困にあえいでいる。
④両家とも、親が無責任すぎる。親が親としての責任を果たしていない。最低の親だ。子どもは、守られるべき子供の権利がないがしろにされている。義務教育の学校側も無関心である。大人が加害者になっているのだ。一番の問題は、そのことを大人が認識していないことなのだ。
⑤稔は、優樹菜がデリヘル嬢であることを知ってショックを受ける。それが切っ掛けで、洋一の父がデリヘルの運転手をしていることが知れ渡る。それが、洋一へのいじめをエスカレートさせる。
⑥優樹菜と辰郎は置手紙を残して家を出ていく。
⑦洋一は橋から身投げして自殺する。
⑧洋一へのいじめの調査が行われるが、加害者側は、全員が否定する。
⑨しかし、心の痛みに耐えかねた稔が、すべてを告白する。

❹まとめ
①上記の通り、文章にすると、社会性のある内容であり、本作に込められた作り手のメッセージと問題点は理解したが、画面からはそれが十分伝わってこなかった。描き方に納得出来ない点があったためである。
②その一つが、中心となる2人の男子中学生、稔と洋一の感情表現。2人とも、大声で叫ぶシーンが何度もあるが、とってつけたようでリアリティが感じられなかった。
③シナリオ上の最大の難点は、洋一が投身自殺するシーン。絶望した洋一は街を彷徨って、気が付いたら橋の上にいた。洋一がいなくなったことを知った稔が後を追いかける。洋一が身を投げるところに、稔が迷わずに到着する。稔はどうして洋一の居所が分かったのか?、伏線など何処にもない。納得出来なかった。
④大変良い題材なのに、描き方が紋切り型で説得力に欠ける。そう感じた。

(注2)友人の意見2:
後日、上記に関し、別の友人と意見交換した。彼も、「最初観た時は、小生と同意見だったが、後から公式パンフに掲載されているシナリオを読んで、初めて全体が理解出来た。その上で、リピートしたが、本作は大傑作だと確信した」と。

⑤その後、下記❺の監督インタビュー記事を読んで、もやもやの謎が解けた。
以下は謎解きの私的仮説である。
ⓐ寺脇 研、前川喜平、隅田 靖の諸氏は、子どもたちの問題の「専門家」である。一方、我々観客の大部分は「素人」である。
ⓑ「素人」にメッセージを伝えるのは、「専門家」が十分と判断するレベルよりも、もっと分かり易く丁寧に噛み砕いてコンテンツを説明する必要がある。
ⓒ本作のシナリオは完璧だった。ただ、撮影期間が短く、丁寧に映像化する余裕がなかった。「専門家」レベルで十分と判断したが、「素人」にはまだ不十分だった。
ⓓつまり、深刻な社会問題に焦点を当てた本作は、子どもたちの問題の「専門家」や、或る程度造詣がある「準専門家」には十分理解された。しかし、知識の乏しい「素人」には理解が不十分だった。

❺トリビア:本作の製作経緯:
①1959年生れの隅田靖監督の前作は、デビュー作の『ワルボロ(2007)』(松田翔太・新垣結衣主演)。予算1億円以上、撮影日数40日で東映が全国配給したが、期待に反してヒットせず、以後10年以上も仕事が出来なかった。
②久しぶりの本作は、前作を高く評価してくれていた寺脇研氏のオファーによるもので、3年かけて110ページの台本に仕上げた。
③低予算で、撮影期間が10日間しかなく、1日10ページ分以上を撮影しなければならず、大変苦労した。
Dick

Dick