月うさぎ

バビロンの月うさぎのレビュー・感想・評価

バビロン(2021年製作の映画)
4.2
何も語ってはいけない映画かもしれない。
でも「面白かった」ではレビューじゃないし、後で自分が何を感じたか忘れちゃいそう。
映画という娯楽がいかに人を熱狂させるものだったか?
サイレント映画の時代から、人は銀幕に映る役者や物語に心を奪われてきた。
「映画の一部になりたい」
この思いは役者、映画の制作関係者、全ての人の想いだろう。

1920年代のハリウッドのリアルを観たこともない狂乱の映像で表現している。
あまりの情報量の多さにストップをかけたくなった。画面の全てを見逃したくない、そんな思いで、食い入るように映画を観る。でも消化しきれない。
アルコールとドラッグだらけの世界は、糞にオシッコにゲロに精液に裸に変態セックス、ギークショー。
観てはいけないものがてんこ盛り。
こんなの見せられて辛かった人もいるだろうな。
この時代を映画化したかったのは、今の映画界の「綺麗事」に縛られた映画と一線を画したかったのかと思う。
音楽もそうだ。本当のパッションはこのような猥雑な中で最高潮を迎える。
コンプライアンスも人権もクソ喰らえな迫力が生み出すものは真の熱気。

時代は移る。人は去る。
けれど銀幕の中のあなたは永遠だ。

映画スターの悲劇は、新しい時代に道を譲るための決断。
トランペッターのシドニーはお前はもう役者なのだと言われ、映画を去り音楽の元に戻る。
なぜこうまでも、映画が人生を変えてしまうのか?ビッグマネーが人を蝕むのか。
これがマジックでなくて何がマジックだというの?

昔は良かったなんて言うなよ。情熱を持った者たちは今も生きているよ。
表現するチャンスさえあれば、ほら、こんなにも。

デイミアン・チャゼル監督が、15年にも及ぶリサーチと構想を経て本作を完成させたという。
やりたい事、全部やれましたか?気はすみましたか?
映画へのオマージュもいっぱい。そしてこの映画もやがてひとつの歴史になるでしょうね。
月うさぎ

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