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バビロンのエスのレビュー・感想・評価

バビロン(2021年製作の映画)
4.8
映画を純粋に敬愛し、野心を掻き立て、憧れを抱き続けるからこそ、どんなカオスに巻き込まれようがそこに残って耐え続ける。けれども現実はあまりにも酷く厳しく汚くて、その心意義をも誰もが等しくぶちのめされる裏側の世界。夢の舞台で輝けないのならなんの意味がある?とも言わんばかりに消え往く魂たちが儚かった。儚くて、見た後日をいくつ跨いでも胸を抉ってくる。

時代は違えどまさに自分がいま目指している世界で、この描きに悲しくならなかったかと言われたら否定はできない。それでも最後のマニーのあの表情がすべてに思えて、自分もこうでありたいと思えた。

スポットが当たる人物が多い中、比較的起死回生といえる場面が少なく見えた今作では、”何を救いとするか”、チャゼル監督が属している職種だからこそのリアルな価値観で映画というものに向き合った作品になったのかなと感じました。

ブラピ演じるジャックコンラッドの映画に対する想いが同じで、というかマニーとネリーの憧れを語り合った会話であったりとか、この作品が提示する映画というものの概念の解釈が完全に一致していたことが嬉しくて所々でボロ泣きしてしまった。だからこそ彼らの退場がほんとに切なくて苦しくて最高で。思い出しただけで胸が張り裂けそうになるし泣きたくなる。
図星だったからブチ切れながらも宥められ、腑に落ち、そこから失われた生きる気力が湧いてくることはなく、終えた方が楽だと。先鋭的で行きたいと言いながらも選択権は無いに等しく、変わりたいと思いながらも板挟みにというか、役者は流され消費されるしかなかったのかなと。シドニーの境遇もきつすぎた。黒塗りの強要という最悪の行為をはじめてちゃんとみたので、脅威はこうやって生まれるんだなと絶望したし、威圧し続ける権力の存在がすごく嫌で。
ネリーの退場も、そういえばマニーとの車の中で”And when I'm done, I'm gonna dance my ass off into the night.”と言ってたなと気が付いた時は鳥肌が止まらなくなりました。

音楽もたまらなく良いし、レズビアンが輝いてたのも嬉しかった。レディフェイの貫禄が大好きです。あのダンスもキスもワニもゲロも淡い空も罵倒も全部脳裏に焼き付いています。どうしてこんなにも切なく美しく魅せれるのか。

刺さりまくっちゃってどうしても上手く書けないけど映画館でみれて本当に良かったなと心底思っています。もっと1920年代やその後、ヘイズコードや実際に起こった事件について調べたいと思ったし、映画史への探究心も爆上がりでした。自分の中で大きな存在の映画になった。大赤字になりながらも創り上げてくれてありがとう。
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