滝井椎野

バビロンの滝井椎野のレビュー・感想・評価

バビロン(2021年製作の映画)
4.1
ニューシネマ的な哀愁と、ギラギラとした狂気が入り混じった劇薬のような作品。
人々が今以上に『映画』というものに幻想と憧れを抱いていたまさに黄金時代を鮮明に描いており、ところどころで描かれる『映画』そのものが持つ歴史やパワー、光と闇が面白い。
太陽のように熱いトランペットの音と共に、1つの時代が終わり、1つの時代が始まる瞬間ーーつまり最もエネルギーに溢れる瞬間ーーを追体験出来るような作品だった。

本作でかなり印象的に扱われているのが『雨に唄えば』であるが、好きな人ほどドキッとさせられる使われ方で効果は絶大。私自身、サイレント映画からトーキー映画への移行というテーマで、『雨に唄えば』を真っ先に思い描いていたので、本作の終わり方は何とも胸にくるものがあった。

ブラッド・ピットやマーゴット・ロビー等名優たちの演技はやはり素晴らしく、刹那に命を燃やす狂気をそれはもう見事に演じている。特にマーゴット・ロビーの実際身近にいたらたまったものではないが、どうしようもなく目が惹きつけられてしまうファムファタール的演技は極上。それぞれ必ず良い結果を迎えはしないだろうという予感を裏切ることなく、それでも予想を超える熱量で演じきっていた。

このように、圧倒的熱量と狂気で描かれる派手な作品なのだが、最も目を惹きつけるのはラスト。ディエゴ•カルバ演じるマニーがハリウッドへと戻り、映画館の席に座ってからのシーン。そこからラストへ向けて描かれる『映画』への愛と敬意は、本作で描かれた狂乱の時代が決して無駄ではなかったことをこれでもかと表していて良かった。

映画を愛する人間に是非一度は観てほしい作品だった。
滝井椎野

滝井椎野