えくそしす島

アンテベラムのえくそしす島のレビュー・感想・評価

アンテベラム(2020年製作の映画)
2.8
【人種差別の象徴】

アンテベラムとは「南北戦争前、戦前」を意味する言葉。タイトルに込められた真意とは何か。ジャンルは奴隷制度や人種差別の恐怖と暴力をベースにしたスリラー。

監督・脚本:ジェラルド・ブッシュ、クリストファー・レンツ
製作:ショーン・マッキトリック(ゲットアウト、アス、ドニー・ダーコ、ブラック・クランズマン等)、他

あらすじ(Filmarksのは見ない方がいい)
南部連合軍が支配する綿花農場(プランテーション)。そこでは黒人たちが圧制の下にあり、過酷な労働と自由に言葉を発することすら禁じられるという、苦痛に満ちた世界が広がっていたのだが…。

昨今、社会全体での
「ポリコレ(ポリティカル・コレクトネス)偏見や差別的発言や態度を防ぐために、社会的・政治的に公正・中立な表現を使いましょー的な意味」
などが浸透し、それは映画業界、ひいては作品群に顕著に表れている。

残念な事によく見かけるのが
作品のテーマに沿って、ではなく、明らかな「配慮」が見え隠れするストーリーやキャスティング。穿った見方をすれば周りの目を怖がっている。
しかし、今の時勢において尚、その配慮を無視して踏み込み、腫物を触るかのようなシビアな題材でも笑いや恐怖、あるいは感動的な話に変えるやり方がある。

それは“自虐“と“当事者“だ

この2つのやり方なら反感は激減する。場合によっては反感意識の方を差別的と指摘され兼ねないからだ。

人種、病気、障害、悲劇、凡ゆる差別

それは昔からではあったが今の時代は特に如実に表れている。だが、一歩間違えると崩壊する。その崩壊する名は「偏り」だ。

制作者から見た踏み込めるライン
視聴者から見た許容できるライン

このバランスが崩れると作品のテーマを大きく超えて一気に不快感が溢れてしまう場合がある。

類似作と照らし合わせるのならばゲットアウトやアスなのだろう。前者2つはギリギリ保っていたラインが今作では崩壊している。

今作の意図や言わんとする所は、分かり易すぎるほど良く分かるのだが、“この題材“を直視するには幼稚で短絡的、そして安易すぎる。

例えるなら
ゲットアウトは、「黒人たちが自分の肌の色をネタにゲラゲラ笑っている所に白人が同じ事を言ったら皆が真顔になった」的な、ギリギリのバランスをついた笑いや怖さがあった。

今作にはそれが余りない。バランスが偏ってしまっている。それが過剰とも取れる表現に繋がってしまい、要所要所で散見される「狙ったシーン」が不快感を増幅させている。

この題材はバランスが極めて重要で、一歩間違えれば新たなプロパガンダの手法になる可能性すらある。視聴後は、偏ったドキュメンタリーや偏向報道を観た時の気持ち悪さを感じてしまった。
加えて、映画的に面白いかと言えば既視感ある話を偏見“だけで“肉付けしてあるだけだ。

白人だろーが、黒人だろーが、何人だろーが、その「人間」で判断するのが当然だ。色じゃない人だ。

その当たり前の常識が非常識だった時代。人間ではなく血統書付きの家畜だった時代。

黒人奴隷は家畜として「ワン・ヘッド、トゥー・ヘッズ」と数えられていた昔。そして、黒人大統領が生まれた今。その意味と意義。

そこに至るまでどれほどの憎悪や憤怒、悲痛や慟哭があったのか。未だ根深く終わりも見えない。だからこそ、題材の重さに対しメッセージ性が軽薄なこの映画は、エンタメ作品だとしても受け入れ難い。

だが、私クラスになると
どんなに差別的で倫理的に問題があっても怖ければニッコリ笑って終われるのだが、全く怖くない!結局はそこに行き着く私をどうか見捨てないで下さい。

コメント欄にて魂の叫び