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プロミシング・ヤング・ウーマンのcinecoroのネタバレレビュー・内容・結末

4.3

このレビューはネタバレを含みます

クルエラの復讐劇がどこまでもエンタメに寄ってわははと笑えて爽快だったのに対しこちらの復讐は私たちの生活と地続きに起こっている出来事に依っているので全く笑えなかった。
不特定多数の男をターゲットにしている前半、キャシーの空虚感漂う日常での態度と、夜の挑戦的な行為のアンバランスさが観ていて不安になるのだけど、真のターゲットに矛先が向く中盤から復讐というより裁きを下す人、で非常に冷静に周到に罠を仕掛け、罪を認めて立ち返らせるという方法をとっている。
罪の意識に悩まされ、精神を病んでいる加害者側の弁護人が眠れないんだ…とキャシーの膝でさめざめと泣くところ、彼に触れて「許すわ…」と呟くキャシーは聖母マリアの様であり、葛藤が見てとれる様でつらいシーンだった。
クライマックスに向けてブリトニーのToxicが流れ始めると、ああこの選曲の妙…(彼女も近年長年に渡る父親からの虐待…と呼ぶべきだろう…が明らかにされている)なんだかもうあらゆる悔しさが溢れてくると同時にキャシーはどうするの!どうなるの!という飲み込まれるような不安と期待が押し寄せる。
このラストは衝撃もあったけど見事だと思う。彼女はスーパーヒーローではない。悪者を成敗する映画ではない。弁護士を訪ねる時も用心棒?を用意していたし、最後も死ぬかもしれないというひとつのストーリーを描いたうえでこれから始まる裁きの準備を整えていた。

「男にとってあんな告発は地獄だ」というような台詞に対して「じゃあ女にとっての地獄って?」というやり取りが発するものが強く残る。
観ていると嫌でも姫野カオルコの小説「彼女は頭が悪いから」の元になった東大生らの事件やそれに類する高偏差値の大学生らによる事件が頭をよぎる。直接的な加害に回るようなクソな奴らはこの映画は観ないと思うので、これを観て何かを感じた人は(もちろん自戒も込めて)ライアンや、キャシーの同級生、学長のような傍観者にならぬよう、性暴力(女性への暴力は明らかにミソジニー)で苦しむ人が無くなる社会を目指してがんばりましょう。
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