YukiSano

るろうに剣心 最終章 The BeginningのYukiSanoのレビュー・感想・評価

3.5
恐らく監督が最も望んで辿り着くことを心待ちにしていた最終章にして始まりの物語。

かなりマジな雰囲気で重々しく主人公の剣心はほとんどしゃべらない。だが本格的な時代劇かというと微妙な所で、シリーズの整合性を取るのに苦労している感がある。

最初の剣心の惨殺殺陣シーンでリアリティーラインが決定するはずなのだが、いつもの壁走りはなくとも口で刀を持って20人ほど切り殺すというロロノア・ゾロみたいな殺陣だった。ここで剣心の強さだけでなく、この作品の方向性や現実と虚構の境界線が浮き彫りになるのだが、これが中途半端に思えてしまった。

確かに普通に斬り殺すと残酷すぎるのだが、いつもの曲芸をする訳にもいかず、試行錯誤の上で「るろうに剣心」らしさを出そうとした結果なのだろう。

このオープニング殺陣が最初に示したとおり、後半までマジな雰囲気はあるけとれども漫画チックな描写と混じって何だか中途半端な印象を受ける。

また主演の佐藤健と有村架純が二人とも無表情の受け演技なのでアート映画風味もあるのだけど、エンタメなのでどうしても案内役となる佐之助のような明るいキャラが必要となるのだが今回はいない。そうなるとエンタメとしては暗く静かな映画で、細かい所は漫画チックという作りになっていた。

非常に頑張っていて、冒険もしているのに惜しい感が拭えない。上映時間が2時間越えていて、この密度は明らかに無駄な間が多いということ。

しかし、桂小五郎役の高橋一生が素晴らしく、彼こそが案内役として全編いてほしかった。彼は「岸辺露伴は動かない」でも素晴らしい演技を披露していた。本当に作品を支える説得力とはこういう演技なのだろう。今回に限っては剣心目線ではなく有村架純や長州藩、新撰組目線で剣心を語った方が理に叶っていたのではなかろうか、とも考えてしまう。漫画では剣心の回想でも、映画版では独立してるため、それくらいの冒険は必要だったのかも。

歴史の中に侵入した剣心という憲法9条という象徴を幕末で描くというならば、信じられないほどのテクニックが必要ということかもしれない。日本の歴史の転換点において、後の憲法9条となる概念を実写で描き切るという大冒険を達成できていたらダークナイトばりに名作となっただろう。20年後にリメイクして欲しい。そう思うほど魅力的な企画、追憶篇でした。
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